ただし、トクホの効果は限定的
ここで、この臨床試験の内容について「PICO(ピコ)」で整理してみます。「PICO」とは、臨床上の疑問を定式化するときに用いられるものです。また、臨床試験の内容を整理し理解するためにも使われます。それぞれのアルファベットの意味は次の通りです。
(1)P(Patients): 誰に?
(2)I(Intervention):何をすると?
(3)C(Comparison):何と比較して?
(4)O(Outcome):どうなるか?
先ほど、例として挙げたトクホの臨床試験の内容をPICOにあてはめてみます。
(1)P: 総コレステロール値が少し高めの人が
(注意:「脂質異常症」といった病気の人は対象外)
(2)I:トクホを毎日利用すると
(注意:臨床試験と同じ「適切な摂取量」が重要。たくさん摂取すればよいわけではない。また、臨床試験と同じ「適切な摂取期間」が必要。1回摂取すれば効果があるわけではない)
(3)C:プラセボと比較して
(4)O:総コレステロール値が「わずか」に下がる
「注意」と書かれたところに気をつけていただきたいのですが、トクホの効果は、あくまで臨床試験と同じような対象者が同じ使い方をして得られるものです。つまり、利用方法が臨床研究と異なった場合、期待される効果が得られるかどうかは、まったくわかりません。
ただ、誤解しないでほしいのですが、トクホを否定しているわけではありません。冒頭で述べた通り、トクホには効果があります。しかし、その「効果があります」の意味するところは、「限られた条件の人が、臨床試験と同じ方法で利用したときに、比較的おだやかな効果を得られる可能性がある」ということになります。
トクホに込められた、もう一つの目的
実は、トクホが目指すところは、その製品のみで血液検査の結果を改善するということではありません。
トクホのもう一つの重要な目的として、偏った食生活が病気につながることを知らせ、バランスの取れた食生活が健康の維持・増進には重要であることを国民に伝えることがあります。そして、トクホは不摂生をしている人が生活習慣を変える行動変容を起こすきっかけとしての役割を担っています。
トクホの製品ラベルには「食生活は、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを」という文言が必ず記載されています。もし、コンビニなどでトクホを見かけたときは手にとって確認してみてください。
これらのことを念頭に、トクホと上手に向き合ってみてもらえたらと思います。
(文=大野智/医師、大阪大学大学院医学系研究科統合医療学寄付講座准教授)