休日や定時後も電話対応…CSや顧客第一主義が従業員を潰す!そもそも日本人には不要
CSが必要とされるのはどんな社会か?
宅配業界の過酷さについては、かねてから指摘されてきたが、この春、衝撃的な動画が世間を騒がせた。佐川急便のドライバーが配達途中で荷物を地面に投げつけたり蹴飛ばしたりとキレまくる様子が撮影され、インターネット上で流されたのだ。これに対して、「とんでもない」と呆れる声もあったものの、同情する声も多く、改めて宅配業界の過酷さが注目されることとなった。
ちょうどその頃、拙著『「おもてなし」という残酷社会』(平凡社新書)において、CS(顧客満足)などという日本社会には不必要な概念を取り入れたのが間違いだったと指摘したところであったため、この件についてよくコメントを求められた。
私が主張したいのは、働き方改革などといってさまざまな試みが行われようとしているが、「海外ではこんなふうにしている」「日本は遅れている」「だから日本もそれを取り入れるべきだ」といった安易な姿勢が問題だということだ。文化的要因・心理的要因を考慮しない改革は、必ず深刻な弊害を生む。
では、なぜCSという概念は、わざわざ日本社会に取り入れる必要がなかったのか。海外に行くと、店員がたとえ笑顔を振りまき友好的な雰囲気を醸し出したとしても、けっして客の気持ちや立場に寄り添うことなく、あくまでもマイペースで動き、自分の立場で言いたいことを言ってくるのに驚かされる。そんな経験がないだろうか。
小さなスーパーでレジに並んでいると、店員が腕時計を指差し、5時半から30分間休憩に入るから、買いたければ30分後に来てくれと言ってレジを閉める。並んでいた客たちは肩をすくめるくらいで、誰も文句を言わずにそこを離れる。日本だったら並んでいる客をさばいてからでないとレジを閉めにくいだろうが、個人主義の観点からしたら当然の権利の行使だ。
購入した商品に不具合があり、交換を求めると、淡々と手続きをしてくれるものの、責任を感じて恐縮する様子はない。商品の不具合は生産者のせいであり、販売者の責任ではないから、個として生きる社会では当然の態度なのだろうが、日本だったら、販売者の責任ではないとはいえ、申し訳なさそうに謝り、丁重な態度で応対するはずだ。