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榎本博明「人と社会の役に立つ心理学」

休日や定時後も電話対応…CSや顧客第一主義が従業員を潰す!そもそも日本人には不要

文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士

 これでCSは日本には必要ないということの意味がわかるだろう。誰もが自分の立場に立ちマイペースで行動するアメリカでは、もう少し消費者の立場に立った対応が必要だということでCSという概念が生まれた。だが、日本ではもともと消費者の立場に立った対応が行われてきた。消費者に対するときに限らず、日本社会では感じ悪くならないように、気分を害さないようにと、常に相手の気持ちや立場を気遣いながら人とやりとりしている。

 それなのにCSなどといったものを強調するようになったため、日本の従業員たちは自分の身を守ることができなくなり、どこまでも無理を強いられるようになった。冒頭で紹介した佐川急便の事件も、まさにそうした流れを象徴する出来事といえる。

「自己中心の文化」と「間柄の文化」では、CSの効果は真逆になる

 私は、欧米の文化を「自己中心の文化」、日本の文化を「間柄の文化」と名づけて対比させている。それぞれの文化は、つぎのように特徴づけることができる。

「自己中心の文化」とは、自分の考えを思う存分主張すればよい、ある事柄を持ち出すかどうか、ある行動を取るかどうかは、自分の意見や立場を基準に判断すべき、とする文化のことである。常に自分自身の意見や立場に従って判断することになる。

 欧米の文化は、まさに「自己中心の文化」といえる。そのような文化のもとで自己形成してきた欧米人は、何事に関しても他者に影響されず自分を基準に判断し、個として独立しており、他者から切り離されている。ゆえに、いつもマイペースなのだ。

 一方、「間柄の文化」とは、一方的な自己主張で人を困らせたり嫌な思いにさせたりしてはいけない、ある事柄を持ち出すかどうか、ある行動を取るかどうかは、相手の気持ちや立場を配慮して判断すべき、とする文化のことである。常に相手の気持ちや立場を配慮しながら判断することになる。

 日本の文化は、まさに「間柄の文化」といえる。そのような文化のもとで自己形成してきた私たち日本人は、何事に関しても自分だけを基準とするのではなく他者の気持ちや立場を配慮して判断するのであり、個として閉じておらず、他者に対して開かれている。ゆえに、たえず相手の期待が気になり、できるだけそれに応えようとする。

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

心理学博士。1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員教授、大阪大学大学院助教授等を経て、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした執筆、企業研修・教育講演等を行う。著書に『「やりたい仕事」病』『薄っぺらいのに自信満々な人』『かかわると面倒くさい人』『伸びる子どもは○○がすごい』『読書をする子は○○がすごい』『勉強できる子は○○がすごい』(以上、日経プレミアシリーズ)、『モチベーションの新法則』『仕事で使える心理学』『心を強くするストレスマネジメント』(以上、日経文庫)、『他人を引きずりおろすのに必死な人』(SB新書)、『「上から目線」の構造<完全版>』(日経ビジネス人文庫)、『「おもてなし」という残酷社会』『思考停止という病理』(平凡社新書)など多数。
MP人間科学研究所 E-mail:mphuman@ae.auone-net.jp

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