処分や罰則ありきのパワハラ規則と調査委員会
パワハラ問題がこじれる2つめの理由は、パワハラがあったと認定された場合の処罰が事前に決まっていることもあるからです。
パワハラを起こさせない抑止力としては、パワハラが認定された場合の加害者に対する処罰は厳しくあるべきですし、その内容は社員たちに公表されるべきでしょう。しかし、規則で決まっている処罰があると、多くの場合、パワハラの有無の判定時に、その“処罰から逆算”してパワハラの有無を認定するかどうか考えてしまうようです。
実際に私が相談を受けた社員1万人規模のある会社では、パワハラ認定されると加害者は退職と決まっていました。年間に(認定される)パワハラが何件あるのか聞いたところ、片手に収まるほどでした。自分の産業医経験から、その数が少なすぎること、この会議に出ていた若手社員たちが下を向いていたことなどから後日、他の社員たちにヒアリングすると、パワハラの相談や調査依頼は他社並みに多数あるものの、調査委員会では多くのケースは“退職”させるほどのものではないという理由で、なかなかパワハラありと判定されないとのことでした。
対処案としては、パワハラ調査員会は、処分や罰則が決まっていて、その処分が妥当かでパワハラの有無を判断するのではなく、パワハラの有無や程度を判定し、それによる処分や罰則を適用するという順番の徹底しかありません。
主治医が問題をこじらせる
パワハラ問題がこじれる3つめの理由は、主治医です。
パワハラ被害者が身体的精神的にダメージを受け、実際に病気になってしまうことは少なくありません。自分が病的な状態になってしまったことを会社に知ってもらうために、主治医に診断書を書いてもらうことは、産業医としては理にかなっていると思います。
しかし残念なことに、この診断書の書き方に難があり、パワハラ問題がこじれてしまうケースも少なからずあるのです。
病気であれば、診断名もあるはずです。公式文書である診断書ですから、診断名には疾患名(病気の名前)を書くべきでしょう。診断名はICD-10(WHOによる国際疾病分類)にあるような正式な疾患名でなく、打撲、抑うつ状態、自律神経失調症などの俗称や症状の記載でも許容できると思います。