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熊谷修「間違いだらけの健康づくり」

牛乳は“体に有害or良い”論争めぐり研究報告…高齢者、飲まないと死亡リスク上昇

文=熊谷修/博士(学術)、一般社団法人全国食支援活動協力会理事
牛乳は“体に有害or良い”論争めぐり研究報告…高齢者、飲まないと死亡リスク上昇の画像1「Gettyimages」より

 今回は、老化を遅らせるための食生活指針である「牛乳を飲む」について解説したい。牛乳は、身近で安価で入手できる食品のなかでも、健康への影響について熱心に議論されているものの筆頭ではないだろうか。インターネット検索エンジンで牛乳、健康、論文とキーワード入力すると、関連情報の数が1,030,000件と表示された(ヤフーの場合、2019年5月現在)。

 明治大学科学コミュニケーション研究所のように、丁寧な情報検証を試みているグループもある。大きな話題になった「牛乳を飲むと骨が弱くなる」という説は、耳にした方も多いのではないだろうか。S氏が著したミリオンセラー書籍に書かれているが、小欄はこの科学根拠は破綻しているとする同研究所の見解を完全に支持する。

 カルシウムは人体が血液中の濃度を厳密にコントロールしている、極めて重要な電解質である。心臓の拍動、血管の拡張収縮のコントロールは、カルシウムイオンによってもたらされている。カルシウムの摂取が不足した場合、血液中のカルシウム濃度がマイナスバランスに傾きやすくなるため、カルシウムの貯蔵庫でもある骨格から動員補給されることになる。そのため、おのずと骨密度は低下する。これが生理機序の基本中の基本だ。

 ちなみに、女性は妊娠期にカルシウム栄養に関する生体反応がダイナミックに変化する。胎児の成長を促すために母体はカルシウムを供給しなければならないため、カルシウムの要求量が各段に上昇する。そこで母体はカルシウムが自身の骨格から動員され胎児への供給にまわされないよう、食事からのカルシウムの吸収率を高めて防御する。日本人の食事摂取基準(※国が定める栄養素摂取の概ねのガイドライン)が妊娠期でもカルシウムの推奨量を変えていないのは、吸収率の増加で賄えるとしているからである。

 日本人はカルシウム摂取量が慢性的に不足状態にある。妊娠適齢期(20-29歳)のカルシウム摂取量の平均値は420mg(平成29年国民健康・栄養調査成績)である。先の基準によると、最低でもこれぐらいは摂らないといけない量(推定平均必要量:100人のうち50人はなんとか足りている量)が550mgとある。牛乳は日本人にとって極めて大切なカルシウム摂取源である。カルシウム摂取のレベルが低い多くの女性の健康問題をより深刻にするような情報も、ミリオンセラー書籍となれば言論と表現の自由ではすまされないと思うのは小欄だけではないだろう。もっとも牛乳には下痢を誘発する乳糖やアレルゲンがあるのも事実である。牛乳有害説が発出される背景はいくばくか許容できる。

熊谷修/博士(学術)、一般社団法人全国食支援活動協力会理事

熊谷修/博士(学術)、一般社団法人全国食支援活動協力会理事

1956年宮崎県生まれ。人間総合科学大学教授。学術博士。1979年東京農業大学卒業。地域住民の生活習慣病予防対策の研究・実践活動を経て、高齢社会の健康施策の開発のため東京都老人総合研究所(現東京都健康長寿医療センター研究所)へ。わが国最初の「老化を遅らせる食生活指針」を発表し、シニアの栄養改善の科学的意義を解明。介護予防のための栄養改善プログラムの第一人者である。東京都健康長寿医療センター研究所協力研究員、介護予防市町村モデル事業支援委員会委員を歴任

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