米国と北朝鮮、歴史的急接近…中国、金正恩に裏切られ米中貿易戦争敗北&習近平失脚の危機
北朝鮮の「米国シフト」
実は、3度目の米朝首脳会談は6月10日にトランプ氏に送られた金氏の親書で提案されていたのだから驚きだ。これを受けて、トランプ氏も金氏に親書を送り、G20終了後の韓国訪問中に板門店に立ち寄るので、ぜひ板門店で会おうと応じた。北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は23日付の一面トップで、トランプ氏の親書を読む金氏の写真を掲載して報道しているほどだ。つまり、金氏の写真掲載はトランプ氏の提案に「応じる」とのサインだったのだ。
トランプ氏は芝居っ気たっぷりに、6月29日の朝、「中国の習主席との会談を含むいくつかのとても大事な会談の後、私は日本を離れて韓国へと向かう。その間、もしも北朝鮮の金委員長がこれを見るならば、私は彼と国境のDMZ(非武装地帯)で会うだろう。ただ彼の手を握り、ハローと言うだけだ!」とツイッターで、つぶやいたのだ。
この時点で、スティーブン・ビーガン北朝鮮担当特別代表が前日に大阪からソウルへ先乗りし、北朝鮮の対米担当責任者の一人、崔善姫(チェ・ソンヒ)北朝鮮第一外務次官と板門店での米朝首脳会談についての念入りな最終調整を行ったのはほぼ間違いない。
この首脳会談の事実を知らされた習氏の心境はいかばかりであろうか。米中首脳会談で貿易戦争回避のための交渉継続で合意したものの、交渉の主導権はあくまでも米側が握っていることには変わりはない。しかも、これまでの対米交渉の切り札となっていた北朝鮮カードの効力はほとんどなくなったことで、習近平は国内的にも極めて厳しい立場に追い込まれていることは間違いない。
中国では7月下旬から、党長老と現役指導部が秋以降の重要な政治問題について非公式に話し合う「北戴河会議」が開催される。党内には米中貿易戦争の影響で中国経済が悪化していることに関して、習氏の責任を問う声が出ているとされるだけに、今後の米中貿易戦争の行方や金氏の「米国シフト」の動きが強まれば、北戴河会議が習氏追及の場と化し、習氏の政治生命にも影響する可能性もなくはないのである。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)