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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

「捕鯨」の是非、日本人と欧米人の議論が“延々とかみ合わない”理由…根本的な論点のズレ

文=篠崎靖男/指揮者

欧米人と日本人の考え方の違い

 ここで思い出したことがあります。ある欧米人と、“捕鯨”について討論をしたことがあるのですが、ある時点から話がかみ合わなくなり始めました。僕は、「確かに、クジラを殺すのは残酷なことかもしれないけれど、欧米人も牛とか豚とかを殺して食べているじゃないか?」と疑問点をぶつけたところ、「クジラは今、頭数が減っているし、保護しなくてはならない」と返ってきました。そこで「そんなことを言っているのではなく、“殺すこと”がかわいそうなんでしょう。だったら、牛とか豚とか殺す賭殺場も同じだよね」と聞き返しました。それには「家畜だからいいんだよ」という、意外な答えが返ってきました。

 その後、「じゃあ、クジラも養殖したら殺して食べてもいいのか」という話になり、議論は平行線をたどりました。もちろん、これはひとりの欧米人の個人的な意見で、動物全体を殺すことに抗議している菜食主義グループも欧米を中心に存在することも存じています。とはいえ、欧米の動物愛護運動では、動物を殺すこと自体が残酷なのではなく、その殺し方を問題にするそうです。日本の動物愛護団体が動物を人間と同等に扱って、動物を殺すこと自体を問題にするのとは違うようです。

 たとえば、イルカの追い込み漁に対して欧米人が執拗に抗議するのは、その殺し方を問題にしているのかもしれません。確かに「イルカ漁は湾の中に追い込んで、残酷な方法で殺し、海が真っ赤になる」ことを問題として海外では報道されており、「海外では、生き物を殺すこと自体に抗議している」と考えてしまう日本人とは、論点が少し違うのかもしれません。

 また、僕が海外に出ると、よく「日本人はクジラを食べるの?」と聞かれます。そこには、少々の非難やクジラを食べることに対する抵抗感が含まれているように感じますが、そういう時に僕は堂々と、こう言うのです。

「うん、食べるよ。まあまあ美味しいよ。でも、皆さんと同じく、ビーフ、ポーク、チキンのほうがおいしいから、あまり食べないけどね」

 そうすると、向こうは黙ってしまいます。

 さて、バレエ「白鳥の湖」、ミュージカル「美女と野獣」など、主役が人間に戻る名作は多いです。西洋と東洋の違いも感じながら、舞台を楽しめるのも東洋人である我々の特権ですので、違う視点で楽しんでみるのも一興かもしれません。
(文=篠崎靖男/指揮者)

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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