1月12日付朝日新聞より
ところが、その判断をゴーサインに追い込む状況が固められている。カギとなるのが、「中小企業金融円滑化法」(金融モラトリアム法)の期限切れである。この法律は、国民新党代表だった亀井静香議員の発案で2009年に施行され、中小規模の企業などの借り手から返済計画の変更(返済負担の軽減)を申し込まれた場合、銀行ができる限り要望に応じるよう義務付けられたもので、借り手の負担は大きく軽減されているものだ。
もともとは2011年3月末までの時限立法だったのだが、期限が2回延長され、いよいよ今年の3月末をもって終了するが、同法による影響の大きさは、以下の通り大きなものだ。
「金融庁がまとめた12年3月末時点の『貸付条件の変更等の実施状況』によると、それがハンパな金額でないことが分かる。全国1521金融機関に対する申し込み件数(累計)は313万3742件で、条件変更が実行されたのは289万3387件。条件を見直した債権の合計は79兆7501億円に上る。すさまじい金額である。このほか、住宅ローンの返済条件を見直した個人が20万4260人で、見直し額は3兆1610億円である」(当サイト掲載記事『金融モラトリアム法の終了でペーパーカンパニーが乱立する?』<2012年10月26日付>)
つぎ込まれた資金が巨額だけに、その副作用も甚大だ。この289万件以上の条件変更がなされた債権の一定割合が、金融モラトリアム法の期限が切れた後に不良債権化すれば、その倒産件数や金額規模はすさまじい水準になる。
●詐欺に手を染める地銀・信金
その期限切れが近くなった現在、不穏な動きを見せている勢力がある。
中小企業に融資をしている、一部の地方銀行(地銀)や信用金庫(信金)だ。この不穏な動きの動機について、ある金融専門家はこう解説する。
「地銀も信金も金融モラトリアム法が期限切れになれば、融資先の倒産や不良債権化は避けがたく、担保価値の範囲内でも融資した資金の回収が危ぶまれる。さらに、現状は消費税の増税も決まっており、融資先企業の見通しも暗い。そこで、地銀や信金は、期限が切れて倒産する前に貸しはがしをして、早期に融資を回収しておきたい。しかし、露骨な貸しはがしには世論の目が光っているので、なんとかして貸しはがしの大義名分がほしい」
そこで、それらの回収を急ぐ両者が目をつけたのが、融資先の中小企業の、中国などアジアへの進出を推進する手口なのだ。先の金融専門家によると、その手口はこうだ。
「例えば、自宅や工場合わせて時価2億円程度を担保にしている融資先の中小企業があったとしても、日本国内の融資案件には融資金額規制があるため、銀行は一定金額(例えば、土地は公示地価の6割)までしか融資はできない。そこで、銀行員がそうした企業を訪問し、追加融資を断りながら、次のようにささやくんですよ」
それは、こんな内容だという。
「国内はもう需要がないから、中国やアジアなど海外市場に進出し、売り上げが伸びる事業計画にしたほうがいいのではないですか? それなら銀行の審査も通りやすいですよ。今は中国に○○業界の部品をつくっている日系企業が集まった工業団地があって、そこは大手メーカーの中国市場担当の偉い人がつくった工業団地ですから安心でしょうし、進出をサポートしている専門のコンサルタントも知っていますから、よかったら個人的にご紹介しましょうか?」
この進出の話の裏には、金融機関側にとって実においしい仕組みが用意されている。