覚せい剤を長期乱用すると、幻覚、妄想、パラノイア(偏執病)などを含む精神異常(サイコシス)を生じることがあります。また、当然栄養の障害から諸々の疾病や細菌感染などが生じやすくなります。注射器を使っている場合には、注射針からの感染としてはウィルス性肝炎による肝機能障害のほか、エイズも心配されます。また水に溶けない不純物を含んだ覚せい剤を注射してしまうと、細い血管に詰まったり、血管を脆弱化させたりする原因となるほか、腎臓病や肺機能障害をも引き起こします。
【睡眠剤との併用】
乱用のパターンでは、睡眠薬バルビツレートとの併用があります。アンフェタミンと交互、あるいは組み合わせて使う場合もあります。覚せい剤を使用してすっかり目が冴えて眠れなくなったときに、自ら鎮静化させる目的でバルビツレートを使用するといった使い方がその一例です。
再び高揚した気分を味わいたいときには、また覚せい剤を使いますので、覚せい剤と睡眠薬を交互に使用するサイクルがつくられることになります。アンフェタミン類とバルビツレートを使用することで、それと気付かないうちにバルビツレートの中毒になってしまうことがあります。食欲不振は拒食症へと進行し、食物をまったく受け付けなくなったり、体重が極端に減少し、物を飲み込むことさえできなくなったりします。
さらに、バルビツレートが凶暴性の誘因となるのみならず、覚せい剤がその凶暴性を実行させる起爆剤として働いてしまうこともあります。
【やめるためにはどのような治療が必要か】
覚せい剤依存症を解消する特効薬はありません。覚せい剤をやめるために精神科を受診して薬を処方されることもありますが、なかには相性の悪い薬もあり、薬を飲むとかえって具合が悪くなってしまうことも多いようです。
「治す」というよりは、依存症を糖尿病や高血圧症のような慢性疾患としてとらえて、薬物を使わない生活を続けるという自己コントロールの継続が目標となります。そのためには、それまでの薬物使用に関係していた状況(人間関係、場所、お金、感情、ストレスなど)を整理・清算し、薬物を使わない生活を持続させることが必要です。
薬物依存症にも認知行動療法の有効性が広く認められていますが、本人が「もう二度と覚せい剤を使いたくない! 使わない!」と強く決心していても、今まで薬物を使っていた場所や、その場のにおいや音など、思い出すきっかけが少しでもあると、また使いたくなってしまうという「条件反射」が出来上がっています。したがって、この条件反射による「渇望」と常に闘い続けることになります。