世界経済にとっての最悪のシナリオ
世界経済にとって最も警戒すべきは、中国経済の一段の減速と、欧州経済のリスク要因の顕在化、さらには米国経済の減速が一度に重なることだ。中国が抱える構造的な問題を考えると、中国経済の減速はこれからも続くだろう。むしろ、中国経済がハードランディングを回避できるのであれば、中国政府の経済運営に合格点を与えてよいだろう。
ただ、ひとつ注意が必要なことは、それは欧州、特にドイツと中国のつながりが深いことだ。大きな人口を抱える中国は、高い技術を持った有力企業が多い先進国にとって重要な市場である。特に、自動車などに強みを持つ輸出主導型経済のドイツにとって、中国は生命線になり得るマーケットだ。
だからこそ、ドイツ企業の多くは、それこそ命運をかけて中国に積極進出している。問題は、人民元の下落などをきっかけに中国経済が一段と減速すると、そのマイナスの影響は、ドイツをはじめ欧州圏の経済に悪影響を及ぼすことだ。欧州諸国の経済状況が悪化すると、金融機関の機能低下などに追い打ちをかけることになる。その場合、欧州経済は恐らく持ちこたえることが難しい。
それに加えて、今はまだ元気な米国経済の減速懸念が台頭すると、世界経済を牽引する国が見当たらなくなる。そうした状況を想像するだけでも恐怖を感じる。しかも、主要国の財政・金融政策には選択の余地が乏しくなっている。仮に最悪のシナリオが現実のものになると、世界経済はかなり大規模な調整局面を覚悟しなければならない。昨年来の原油価格の下落や、足元の世界的な株式市場の混乱、さらには為替市場の不安定な展開はそうしたリスクシナリオを暗示しているといえる。
日本はリスク要因の顕在化に備えて、それらを明確に整理しておく必要がある。
(文=真壁昭夫/信州大学経済学部教授)