更生保護施設とは、刑務所を出所後、身寄りのない人、住居がない人を収容し、社会復帰や自立に向け生活指導を行う、全寮制の施設だ。全国に104カ所(2013年1月時点)ある法務省管轄下の非営利民間組織である。
この更生保護施設、「懲役慣れ」した者にとっては「ちょっとしたペンション」として知られているという。
「仮釈で出ても、金も住むところもない。だから更生保護施設に行くというわけです。刑務所出の人たちの自立を目指すというが、本人にそのつもりはないケースが多い。ここでしばらく勤め先が見つかるまでブラブラして、勤め先と住むところが決まると、すぐに施設を出る。それからさっさと勤め先を退職して、生活保護受給の申請に行く。これで生涯食っていけます」(元収容者)
人権意識が厳しい時代、刑務所といえども劣悪な環境ではないという。ましてや矯正施設ではない、民間施設である更生保護施設ならなおさらだ。そんな更生保護施設の実態を見てみよう。
自衛隊よりはるかに楽勝の刑務所生活
「私は、元は自衛官だったんですよ。定年後、どうにも自衛隊病、とにかく時間さえ過ごせば給料はもらえるだろうという発想が抜けなくて……。民間企業に勤務したのえすが、どうにも水に合わなくて、辞めてからはパチンコ、パチスロ三昧。それで食っていけなくなって、年金もらえるまでのつなぎとして、刑務所を考えました」(元収容者)
この元収容者は、自衛隊の中でも精鋭部隊として知られる厳しい勤務に付いていたという。この厳しさに比べると「刑務所のほうが断然楽」という。
「自衛隊の訓練のほうが刑務所より厳しいですよ。演習時などは、それこそ24時間勤務ですから。でも刑務所は作業だけ。休み時間も決まっています。体力的にも精神的にも刑務所は楽。それに今、刑務所も満杯なので、ちょっと真面目にやっていれば仮釈放もすぐにつく。仮釈放後に行く更生保護施設は、慰安旅行みたいなものでしたね」(同)
更生保護施設は自立を目指す施設なので、基本的には、宿と食事を提供するが、それ以外の時間は、ハローワークに通うなどして就職活動をすることになっている。
「ハローワークに行ったところで『ムショ帰り』を雇う会社なんて、そうそうない。なのでハローワークに行った事実をつくって、それを更生保護施設の職員に報告するだけです。これの繰り返しで最長半年はいられる。この半年間は、いってみれば娑婆(一般世間)へのリハビリみたいなもの。パチンコ、パチスロ、酒の腕を取り戻す時間です」(同)
酒・タバコ、賭け事、バレなければやり放題?
本来、刑務所満期出所者や仮釈放者を預かる更生保護施設では、酒、タバコ、賭け事の類は、一切禁止されている。だが実態は「口うるさく注意はするが、見逃しているところが多い」(更生保護施設職員)という。
なぜ、見逃すのだろうか?
「更生保護施設では、収容者の受け入れが点数制になっているからです。国から補助金などをもらう際、収容者の数が多いに越したことはない。収容者の中には、何度も出たり、入ったりを繰り返す“常連さん”もいる。収容中に逃げられたとなると、問題が大きくなるので。それを防ぐために多少のことは大目に見ている節があります」(同)
このような現状に、当の更生保護施設の職員の多くは、「更生を支援する」という目的から大きく逸脱しているのではと危機感を抱いている。だが、何か具体的な対応策があるわけではない。
「刑務所、更生保護施設などに繰り返し来る人に対し、昨今の人権意識の高まりを受け、彼らの“人権尊重”の観点から、厳しく指導はできません。また収容者を数多く受け入れることが施設の実績となるので、どうしても当たり障りのない対応になってしまいます」(同)
正義感から退職する職員も
更生保護施設職員のうち、特に指導員と呼ばれる職に就くのは、教師、警察官、刑務官、自衛官などのOBが多い。正義感の強さから、やり切れない思いを抱き、退職する者もいる。
「刑務所は衣食住タダで、更生保護施設でも実質そう。施設を出てからは生活保護で働かなくても生涯食べていける。プライドさえ捨てれば、この国は生活の面倒を見てくれるのですから。いい国ですよ」(元更生保護施設指導員)
生活保護不正受給や懲役志願などの問題解決を最も望んでいるのは、更生保護施設職員をはじめとする、「働かない人たち」を相手とする仕事をしている人たちかもしれない。
(文=秋山謙一郎/経済ジャーナリスト)