2月16日、日本銀行はマイナス金利を開始した。1月29日に日銀がマイナス金利の導入を決定した時、金融市場の関係者はある種の驚きを持って受け止めた。金融専門家のなかには、マイナス金利政策を“黒田バズーカ第3弾”と評する向きもあった。
その背景には、マイナス金利自体が日本にとって初めての政策だったことに加えて、1月21日、黒田東彦日銀総裁が参院決算委員会の場でマイナス金利の導入を否定したにもかかわらず、わずか8日後に突如、その導入を発表したことがある。ベテランディーラーのひとりは、「日銀がそこまで追い込まれているのか」と嘆息を漏らしていたことが印象的だった。
問題は、マイナス金利がもたらすメリットと、副作用ともいうべきデメリットがどのようになるのかが読みにくいことだ。欧州諸国ではすでに1年以上前から、マイナス金利を実行しているが、消費者物価指数は低迷を続け、景気自体もなかなか改善の兆しが見えてこない。そうした前例にもかかわらず、日銀は臆することなく「物価上昇目標を達成するためになんでもする」との姿勢を変えず、マイナス金利の世界に足を踏み入れた。
一方、マイナス金利実施の後、国債市場では10年までの期間で流通利回りがマイナス領域に落ちこんだ。それは、資金運用を行う投資家や金融機関にとって、収益機会が大きく減少することを意味する。そのデメリットは大きい。その意味では、マイナス金利政策はこれまでの金融市場の構造を大きく変える懸念もある。果たして、マイナス金利政策はうまく作動するだろうか。疑問符をつける専門家は多い。
マイナス金利政策の効果と限界
市中の金融機関が余った資金を日銀に預ける場合、これまで日銀は法定準備金を超える部分について0.1%の金利をつけてきた。マイナス金利政策では、その部分についてマイナス0.1%の金利を適用することで、市中での資金循環の活発化を促す効果を狙った。また、マイナス金利を実施することで全般的な金利水準を低下させ、お金を借りる人の負担を軽減することができる。住宅ローンの金利などはさらに下がり、住宅を買う人にとっては有利になる。
しかし、今までも金利は十分に低かった。問題は、お金を借りる人が少なかったことだ。国内企業部門はかなり潤沢に手元にお金を持っており、借りる必要は低い。そもそも、お金を借りても、儲けられる事業がなかなか見当たらないため、金融機関からお金を借りる企業が少なく、資金需要が盛り上がらないのである。結果として、日銀が毎年80兆円もお金を印刷して市中に供給しても、なかなかお金がうまく回らない。