一方、マイナス金利にはデメリットも多い。金利が下がることは、お金を運用する側にとってはまさに“拷問”のような厳しい状況になる。国債の流通利回りがマイナスになってしまうと、国債に投資して満期まで保有すると、利回りがマイナスになる。それでは投資の意味がなくなってしまう。銀行や保険会社などは、これまでのビジネスモデルが通用しなくなる。特に、運用手段の限られている中小の金融機関には、かなり厳しい状況だ。
日銀の狙いと黒田総裁の強気の姿勢
マイナス金利政策は、日銀がお金を運用する側のデメリットを考えても、金利水準を引き下げ物価目標の達成を目指すことを選択したということだ。問題は、その効果が読みにくい点だ。専門家の間では悲観的な見方も多い。特に中国経済の減速鮮明化などの状況を考えると、日銀が狙っている効果が短期間で顕在化するとは考えにくい。黒田総裁はそうした状況を十分に理解しているが、総裁としては強気な姿勢を崩すことができないのだろう。
注目されるポイントは、マイナス金利の効果が顕在化するタイミングだ。実体経済に明るさが見えてくる時期が、金融政策の限界が露呈する前にやってくればよいが、そのタイミングが逆になったとき、マイナス金利のデメリットが際立ってしまう。それでは、日銀はさらに苦しい立場に追い込まれえることになる。
もうひとつ、為替動向も気になる。昨年は円安傾向が進んでいたことは、国内企業、特に大手企業にとって業績を改善する大きな効果をもたらした。日銀も政府も、これからもできれば円安傾向を維持したいと考えていたことだろう。
ところが、足元の為替市場では、むしろ円が強含みの傾向が見られる。ドル・円の為替レートを見ると、日銀のマイナス金利政策の実施にもかかわらず、FRB(米連邦準備制度)の金利引き上げの観測が後退していることもあり、ヘッジファンドなどの投機筋は円買い・ドル売りのオペレーションに動き始めている。今後円高が進むと、大手企業の収益に逆風が吹くことになる。それも、日銀にとっては厳しい状況だ。
マネーゲームに冷静な対応が必要
為替は2通貨間の交換レートである以上、日本の事情だけで決められるものではない。米国経済は今まで堅調な展開を示してきたこともあり、2011年11月以降、ドル高・円安傾向が続いてきた。しかし、足元で米国企業の業績が伸び悩みになっていることもあり、米国産業界からドル高に対する懸念の声が上がり始めている。そうした事情を勘案すると、日銀が金利を低下させても、なかなか円安・ドル高の方向には動きにくくなっている。その意味では、日本経済に円高の逆風が吹くリスクを頭に入れておくべきだ。