自衛官の出身分布と貧富の差
そこで浮上してくる案が、経済的徴兵制です。アメリカがその典型として例に挙げられますが、実は日本でも自衛隊が創設された当初からそうでした。農家の二男、三男が自衛隊に入るケースは多く、経済的な理由から自衛隊に入る人がいるという事実は、長い間指摘され続けてきました。
上の表は、自衛隊入隊者と貧困率の関係について調べた結果です。高校卒業後に入隊した都道府県別の上位15県は、圧倒的に東北、北海道、九州が多く、この傾向は長年変わっていません。
貧困率と一人当たり県民所得を見ると、自衛隊入隊率が高い上位15県のうち13県の県民所得は、低い方から15位以内に入っています。
さらに、この年の全国の高卒自衛隊員のうち、貧困率上位15県の出身者が52%も占めています。これら15県の高校新卒者は全国の26%という人口比率に照らしてみると、ほかの地域に比べて入隊率は2倍も高いといえます。
自衛隊を就職先とする人、入隊後に夜間大学をめざす隊員
従来、任期制隊員は高卒がほとんどで、大卒は幹部候補生など将来幹部になる人が多かったのです。ところが、最近は大卒で任期制隊員になる人が急増し、ここ10年間で約2倍になり、任期制の入隊者の約4人に1人が大卒という状況です。
その大卒自衛隊員は、奨学金を返済するために入隊した人が多いようです。奨学金を借りると、大学を卒業するまでに何百万円もの借金を背負うことになります。今や大学を卒業しても正社員になれないことも多く、非正規社員では収入が低く奨学金を返せなくなるリスクがあります。
現在、大学生の2人に1人は、なんらかの奨学金を借りており、卒業時の借金額は平均313万円、返済期間は14年強です。大学院まで進んだ人のなかには、1000万円以上の借金を抱えるケースもあり、多くの人が“奨学金地獄”で破綻している。
逆に、大学に入るために自衛隊に入る人もいます。「大学に入るための自己資金が足りず、奨学金を借りようと思ったがリスクになることが怖かった」との理由から自衛隊に入り、数年後には働きながら夜間の大学に通い始めた人がいます。
また、母子家庭で育った人が「大学に行けば親に負担をかけることになるが、自衛隊は衣食住がタダだから、親に仕送りができて親孝行ができる」という理由で自衛隊に入った例もあります。
自衛隊もそのような実態を理解しており、民間の雇用環境が悪化するなか、相対的に自衛隊が魅力的であるとアピールしています。