トランプ候補に「君たち教育のない人達が僕は好きさ」と言われても平気な米国人の感覚
紀元前4世紀に弁論術の古典を著したアリストテレスは、聴衆を説得するためには次の3つの要素が必要だとした。
・logos(ロゴス)…論理的な説得
・pathos(パトス)…感情に訴えることよる説得
・ethos(エートス)…話し手の人柄(人格)による説得(信頼できると直感できる話し手)
他人を説得するための3要素の必要性は、現代でも変わらないだろう。日本では、人柄も良く、理性的で論理的説明ができる人は多い。だが、惜しいことに、その多くが相手の感情にアピールする術を知らない。ポピュリズムに懸念を持ち、それを阻止しなくてはいけないと思っているのなら、人間の脳の仕組みを知り、感情に訴える方法を学ばなくてはいけない。
日本は伝統的に黒白をつけるのを避け、曖昧さを尊ぶところがある。だが、ほかの先進国と同様に、経済格差や世代格差が進むなか、そういった考え方も変化してきている。曖昧な社会では必要なかった「他人を説得するテクニック」は、今後、特にリーダーになる人には必須のコミュニケーションテクニックとなるはずだ。
最後に、米国のトランプ旋風でのエピソードをひとつ紹介したい。
トランプ氏を支持するのは、学歴の低い白人、低所得者、労働者階級が多いといわれる。海外ニュースで、トランプ氏が支持者の集まりで支持者をたたえるような口調で「君たち教育のない人達がボクは大好きさ」と発言しているのを聞いてびっくりした。教育がないと言われた人たちも、それに傷つくわけでもなく声援を送っていた。思うに、日本人は大学卒ではないことを恥ずかしいと感じている人たちが多く、それに対して米国人は「教育がなくて何が悪い」と開き直っているのではないか。グローバル化で、特に先進国は多くの点で類似してきているが、ときどき日本との違いを見せつけられて驚くことがある。
(文=ルディー和子/マーケティング評論家、立命館大学客員教授)