自由選挙を認めれば、当時活動が活発化し始めていた無産政党(社会主義政党)と無産者(労働者)が国会に進出してしまう。そこで当時の与党議員らが導入したのが、治安維持法と供託金制度だった。
表向きは売名行為の立候補者や、泡沫候補を未然に防ぐための供託金だと説明された。しかし真の目的は、経済的負担をかけて貧しい人々やその代弁者たる無産政党の国会進出を阻むことにある。
加えて、治安維持法を成立させることにより社会運動・政治運動を直接弾圧した。つまり、男子普通選挙が実施された時点で、権力による直接弾圧とカネによる弾圧のセットが確立されたといえよう。
刑務所の壁のように高い供託金という参入障壁
問題は、自由な選挙を潰すため90年前にできあがった思想と制度が、今もなお続いていることだ。
治安維持法は第二次世界大戦終結後に廃止されたが、代わりにいくつも問題のある法律を政府は成立させている。まず、「特定秘密の保護に関する法律」(特定秘密保護法)が施行されたほか、先の国会では「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」(通信傍受法)=盗聴法における警察捜査の盗聴の対象が大幅に拡大し、冤罪を増大させるおそれのある刑事訴訟法の改悪(部分取調べ可視化・司法取引の導入など)が行われた。
今年の参議院議員選挙告示4日前の6月18日、大分県警別府警察署が野党の選挙拠点となる労働団体が入居する別府地区労働福祉会館の敷地に隠しカメラを設置し、盗撮していたことが発覚した。6月23日に隠しカメラが発見された。
明らかに警察が野党の選挙活動を監視・妨害していたのだ。前述したように“盗聴の自由化”といっていいほどに盗聴の権限が拡大され、他人の犯罪について情報を提供すれば自分の罪が軽くなる司法取引も導入されたことと重ね合わせると、手を変え品を変えて治安維持法的効果を狙っていることがわかる。
そのうえ、過去3度も廃案になった、犯罪を実行しなくても犯罪の相談をしただけで罪になる「共謀罪」が、名前を変えて上程されそうな雲行きだ。このような情勢を見れば、選挙違反については選挙管理委員会などが取り締まるようにし、警察が取り締まれないように法改正することも検討課題だろう。
一方のカネによる弾圧=供託金はどうか。実は第二次世界大戦後は、公職選挙法が改正されるごとに供託金額を上げて、参入障壁を高くしているのだ。戦前は、法改正のたびに納税額を下げるなどして、少しずつだがハードルを下げてきたのとは対照的である。