(「Wikipedia」より)
今回の罰則強化は、2008~11年にかけて、企業が実施する公募増資の情報が事前にマーケットに流れ、当該銘柄の出来高を伴って株価が急落したことに端を発している。公募増資は発行株式数の増加で、1株当たりの価値が希薄化するため、株価の下落要因になるケースが多い。事前に情報を得た投資家が空売りし、発表時の株価下落で買い戻せば、利益を上げることができる。いわゆる「増資インサイダー」事件で、12年に幹事証券などが処分勧告を受けた。しかし、明確な罰則規定がなかったことで、今回の法改正に進んだ経緯がある。
そもそも、証券会社も金融庁も当初、増資インサイダーを甘く見ていたフシがある。公募株式を引き受けて販売する幹事証券は、機関投資家らに購入希望などについて、正式発表前に事前の打診を行うことが当然とされていた。
10年に株式市場で増資銘柄が発表前に急落する例が相次ぎ、株主から不信感が募っても、証券会社サイドは特に問題視することはなかったとされている。当局も、増資発表から払い込みまでの期間を短くするなどの「対症療法」で乗り切ろうとしていたもよう。
しかし、株式市場関係者から、増資インサイダーを問題視する流れが大きくなる中で、規制当局がようやく重い腰を上げた。問題が出て以降、勧告まで2年もの歳月を要したのには、後手に回った対応があるのだ。
米国では情報漏えいした証券会社が幹事からは外されるなどの制裁があるが、国内では大量の株式をさばけるのは大手証券会社の一角に限られており、情報漏えいが公然化しても、問題視されることが少なかったとされる。これまでインサイダー取引は情報を知って取引をした投資家が対象だったが、今回の法改正で、情報漏えい側も対象となるのは、一歩前進といえよう。刑事罰の対象にはインサイダー取引の金額が大きかったり、繰り返し情報を漏らすなど悪質なケースが想定される。監督責任がある場合には、企業も対象になるようだ。
●決算情報の事前漏えいが発覚
一方、現実に適用するには難しい場面も予想される。例えば最近、上場企業の重要情報が、公表直前にインターネット上で投資家に閲覧されていたことが明らかとなった。報道によれば、20社余りが該当し、決算の概要をまとめた決算短信や業績修正などの資料が企業ホームページ(HP)上で閲覧されたという。
公表前後の株式売買で数百万円単位の利益を得たケースもあるという。事前に情報を入手して売買すれば、一般的にはインサイダー取引として処罰の対象となる。ただ、今回のケースはこれに該当せず、規制当局の対応もあいまいなものとなっている。
金融商品取引法がインサイダー規制の対象としているのは、企業側の担当者が業務上知り得た決算上方修正などの事実を把握し、この情報を得た投資家が株式売買を行って利益を上げたケース。業務上知り得た担当者が売買しても、当然法律に触れることになる。
今回発覚した企業HPからの決算情報漏えい事故は、東証の適時開示システム「TDnet」に公表するのと同時に、自社HP上に開示する仕組みの虚をつかれたもの。企業はHPに事前にリンクを貼り付けて同時開示の準備を行うが、こうしたデータを管理サーバーで保管し、開示に備える。今回問題となっている漏えい事故では、この更新データに事前にアクセスすることで情報を得ていたとされる。
仮に、これが公募増資の情報で、知り得た投資家が売買をしたとしたら、当局はどう判断するのだろうか。問題だが、違法ではないとして看過するのか。企業側からすれば東証との同時開示で、タイムリーディスクロージャー(適時開示)を行うために準備していたことになる。情報開示に熱心な企業だからこそ、こうした問題が起きている格好だ。