【森友学園問題】、財務省は本当に記録を廃棄したのか…高まる疑惑と過去の「隠蔽事件」との類似性
この事件では、関係者の法廷での証言が、捜査段階でつくられた調書と食い違った。そのため、捜査を担当した検事が証人に立つたびに、弁護側は取り調べの際につくったメモを提出するよう求めた。メモを見れば、捜査段階で関係者がどういう発言をしていたのかを概ね知ることができ、供述調書がその発言に基づいているのかを確認できるからだ。
だが、検事は軒並み「廃棄した」などと述べて、ただのひとりもメモの提出に応じなかった。都合の悪いメモ類は廃棄し、問題を隠蔽する。このような大阪地検特捜部の対応と、森友問題での財務省の姿勢が重なって見えてしかたがない。
本当に記録は廃棄されたのか
朝日新聞が第一報を報じてから1カ月もたつというのに真相が明らかにならず、ますます混迷している最大の原因は、財務省が近畿財務局と森友学園の交渉記録を「廃棄した」と主張し、8億円もの値引きが正当であることを示す根拠がきちんと示されないところにある。「売買価格は適正であった」とか、その経緯も「適正であった」と財務省や財務大臣が繰り返しても、それを裏付ける記録が出てこなければ、どこまで信用していいのかわからない。
財務省の行政文書管理規則で、面会記録などの保存期間は1年未満とされ、近畿財務局と学園側の交渉や面会の記録は、16年6月の売買契約締結後に廃棄した、と同省側は説明する。
しかし、国有財産の処分について、納税者であり、主権者たる国民から疑義が呈せられた時、「かくかくしかじかの経緯で、このような根拠に基づいて対応しました」と説明し、その根拠になる記録を開示するのは行政の責務だろう。本件では、役所側が次々に森友側の要望に添った、異例の対応をしているために疑惑を招いている。政治家からの強い働きかけがあったのか、あるいは財務省側が政治案件として忖度をしたのか、何かしらの不公正なことがあって、森元学園は特別扱いがなされたのではないかと、強く疑われている。
今回の売買価格の正当性や、本件が異例な経緯を辿った理由を、国民は知る権利がある。
会計検査院が、土地の売買価格や手続きが適正だったか調べることになっているが、当時の記録なしに、どこまで真相に迫る調査が行えるのだろうか。記録を「廃棄した」というのは、財務省がそう言っているだけで、本当かどうか、確かめるすべはない。
毎日新聞の伊藤智永・編集委員は3月3日付同紙のコラムで、旧大蔵省時代から同省を担当し「同省の文書作成・管理の徹底ぶりを骨身に染みて経験した」と書いている。小泉政権時代に同紙の官邸キャップだった伊藤氏は、「同省が『私的メモ』扱いで公文書に分類していない分厚い極秘内覧文書を、見たことがある。すべてがメモされていた」という。
元朝日新聞編集委員の山田厚史氏も、財務省OBの「交渉記録を残しておかないとあとで問題になった時、困る。行政経験の積み上げという面からも資料を残すことは大事だ」という言葉を引いたうえで、こう書いている。
「ただ外部から覗かれるのは困る、というのが財務省の基本的な立場である。決裁文書などは公文書として保管するが、経過や政治家など外部対応などが詳細に書かれた文書は『担当者の私的メモ』とする。情報公開の対象から外すための工作である。『私的メモ』といっても担当者個人が持っているのではない。関係者が共有できるファイルになっている」(3月2日付「ダイヤモンド・オンライン」)
防衛省が、南スーダン国連に参加した陸上自衛隊の日報を「廃棄した」と言っていた件では、自民党行政改革推進本部の本部長を務める河野太郎衆院議員が、「行政文書の扱いが不適切」と問題視し、紙だけでなく電子データも含めて再調査を求めたところ、電子データ化された文書が「発見」された。
スキャンして電子データにすれば、保存にスペースも必要ない。今回の交渉経過を記した記録も、「私的メモ」として誰かのコンピューターの中に眠っていたりはしないのだろうか。
評価額9億5600万円の国有財産が1億3400万円で処分されたことについて、後から検証できない事態も、まさに「行政文書の扱いが不適切」といえるだろう。野党のみならず、与党もこの問題については、財務省に強く記録の開示を求めてもらいたい。
このまま財務省の逃げ切りを許してはならない。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)