「裁量労働の人が労働時間を聞かれても、『わからない』としか言いようがありません。時間で計れない労働をしている人が裁量労働になってるので、その労働時間を調べようとする調査自体がデタラメです」
嘉悦大学教授の高橋洋一氏は、そう喝破する。
裁量労働制に関し、厚生労働省の調査に不適切なデータが次々と見つかり、与野党の攻防が激しくなっている。高橋氏は大学教授であり、労働基準法に基づく裁量労働者である。
「私自身、自分の労働時間というのはわかりません。大学の先生というのは、教育職と研究職を兼ねており、教育職であれば講義とその準備時間から労働時間を計れます。一方、研究については、この論文書くのに何時間勉強したかなんて把握していないし、何十年も温めていて少しずつ書いて本を出すこともある。労働時間なんて、わからないですよ。裁量労働者には健康管理上の時間調査というのはあります。その調査で労働時間を問われて、『朝目が覚めてから夜眠るまで』と書いた同僚がいましたが、そのくらいわからない。わからないものを無理して調査するから、おかしな結果になるんです」(同)
現在、裁量労働制が認められている職種は、研究開発、情報処理システムの設計・分析、大学における教授研究、取材・編集、デザイナー、プロデューサー、ディレクター、コピーライター、システムコンサルタント、ゲーム用ソフトウェア開発、公認会計士、不動産鑑定士、弁理士、インテリアコーディネーター、証券アナリスト、金融工学による金融商品の開発、建築士、弁護士、税理士、中小企業診断士などである。
筆者はフリーランスだが、裁量労働制になり得る職種である。風呂に入っている時も「あの原稿をどうまとめようか」とつい考えてしまうし、趣味で読んでおいた本が仕事で役立つこともある。旅の企画で夜行列車に乗る場合、そこでビールを飲めば食事もし眠りもする。どこからどこまでが労働時間かはわからない。
適法な裁量労働とは
今回、政府が提出する働き方改革法案(労働法改正)で、裁量労働制が認められる職種として付け加えられようとしていたのは、次の2業種だ。
1つは「課題解決型提案営業」。法人顧客の事業について企画・立案・調査・分析を行った上で、その結果を活用して営業を行う業務である。もう1つは「裁量的にPDCAを回す業務」。自社の事業について、企画・立案・調査・分析を行い、その結果を活用して事業の管理・実施状況の評価を行うという準管理職的な業務である。
「今、裁量労働者というのは、全労働人口の2パーセントくらいでしょう。改正されても、せいぜい2.5パーセントに増えるくらいの話であり、、多くの労働者にとっては、関係のないことです。自分で労働時間が決められる、というのが裁量労働の定義。労務管理、時間管理を受けないという労働形態ですから、すごく少ない。取材に来るマスコミの人に、『あなた裁量労働なの?』と聞くと、『上からは裁量労働だと言われている』と言うのですが、よく聞くと『タイムカード押してる』と言います。それは裁量労働ではありません。時間管理を受けてるのに裁量労働と言われて残業代をもらっていないというのは、労働基準法違反なので、労働基準監督署に相談に行ったほうがいいです。適法な裁量労働であれば、タイムカードなんてありません。あったらおかしいんです」