東京オリンピック・パラリンピックの開催をめぐって世論が紛糾する中、6月25日には東京都議会議員選挙の告示が行われる(7月4日投開票)。2017年の都議選では、小池百合子東京都知事が率いる都民ファーストの会が大勝し、都議会で最大会派を形成しているが、今回は苦戦が予想されている。一方、小池知事は昨年の東京都知事選挙で歴代2位の366万1371票で再選を果たした。
「小池知事は東京五輪中止を打ち出して都議選を戦い、その後の国政復帰、さらには首相就任のシナリオを描いている可能性もある。また、その裏には“ポスト菅”をめぐる密約があってもおかしくない」と語る、ジャーナリストの横田一氏に話を聞いた。
小池百合子は“菅五輪”と心中するのか?
――約5年間続く小池都政については、どう見ていますか。
横田一氏(以下、横田) まさに“やってる感”ばかりの演出のみの都政運営で、相変わらず「自分ファースト」「選挙ファースト」が続いています。「都民は二の次の都政」と総括しています。象徴的なのが、東京五輪に対する姿勢です。世論は「中止か再延期」が圧倒的多数にも関わらず、小池知事は政府に要請しようともしません。開催強行して新型コロナの感染爆発が起きれば、国民や都民に大きな被害が及び、我々は命の危険にさらされてしまいます。
そのため、本来であれば中止や再延期を政府に進言するのが開催都市のトップである小池知事の役割ですが、動く気配はいっこうにありません。菅政権の言う「安心安全な開催」を繰り返すだけで、“スガリンピック”“菅五輪”と心中するつもりかと思っています。
――緊急事態宣言をめぐる対応については、いかがですか。
横田 昨秋に東京も「Go To トラベル」キャンペーンの対象になった後、感染者数が急増し、東京都医師会の尾崎治夫会長が「(Go To トラベルは)一度、中断を決断すべき」と発言しました。しかし、小池知事は菅義偉首相と責任のなすり合いをするだけで、適切な判断や発言を素早くすることはありませんでした。これは、菅首相に対する個人的な嫌悪感や不仲がまともな政策につながらないことが表面化した一例といえます。
当時の動きを見ても、小池知事は政策よりも自分の感情や政局を優先していることは明らかです。その後、年明けに近隣の3知事とともに緊急事態宣言発出を政府に要請し、菅首相の判断が遅れたという政治的なイメージをつくることには成功しました。このように“やってる感”をアピールするのはうまいのですが、実態としては不適切な判断や選択を何度もしています。
――横田さんは小池知事の定例会見にも出席していますが。
横田 定例会見では、手をあげてもさされない状態が3年半続いています。そのため、先日も会見終了後に「五輪中止は言わないのか」「バッハの言いなりか」「最大のコロナ対策は五輪中止ではないか」「都民の命は二の次、都民ファーストではなく五輪ファースト」と申し上げましたが、小池知事は一言も答えませんでした。
このようなやり取りは、小池都政の象徴です。五輪開催により“東京変異株”が発生し、感染爆発が起きた場合の対策費は約3兆円と見積もられています。一方、五輪中止による損害は約1兆8000億円との試算があり、開催強行によるコストの方がはるかに大きくなる可能性があるのです。
――会見で3年半もさされないというのは、かなりひどい対応ですね。
横田 私だけでなく、厳しい質問を投げかける記者に対しては、相変わらず「排除の論理」による記者の選別が続いています。そういう差別的対応が小池知事の本質です。自分のお気に入りの政治家や記者は受け入れますが、そうでなければ排除するというのが、2017年からの一貫した姿勢です。
私は大阪府、大阪市、埼玉県、山梨県などの首長定例会見にも出席していますが、こんなにひどい扱いを受けているのは都知事の会見だけです。小池知事からすれば、17年の衆院選で「排除します」という言葉を引き出した天敵のジャーナリストを絶対に許さないということでしょう。ただ、あのときは「(民進党から)ハト派からタカ派まで受け入れて、排除しない方が安倍政権の打倒につながる」と建設的な意見を申し上げたつもりですが、趣旨がくみ取られず、あの排除発言につながりました。
今は立憲民主党、共産党、社民党が五輪中止を提言していますが、仮に小池知事がこの意見に乗っかれば、首相の椅子が近づく可能性があります。定例会見ではそういうお声がけもしていますが、反応は一切ありません。
都議選前に“五輪中止”ぶち上げの可能性も
――都議選では、東京五輪の開催も焦点のひとつになるのではないでしょうか。
横田 おそらくそうなるでしょう。小池知事が“菅五輪”と心中すれば都民ファが惨敗するのは明らかですが、勝負師と言われる小池知事がそんな選択をするとは思えません。そのため、一転して中止を言い出す可能性も残されていると思っています。
17年を振り返ると、小池知事は5月までは自民党都連への批判を繰り返していましたが、本丸の安倍政権に対しては批判を抑えていました。しかし、6月に入って「モリカケ問題」で自民党が窮地に陥ると、小池知事は離党届を提出し、政権との対立構造をつくり出して都議選で都民ファが大勝しました。この成功体験を忘れるはずがないので、今後の動きに注目しています。6月25日の告示前に、東京五輪の中止について言い出す可能性があります。
――小池知事が特別顧問を務める都民ファは苦戦が予想されていますが。
横田 危機感は相当あると思います。5月28日には、増子博樹幹事長名で「(東京五輪について)再度の延期も含むあらゆる選択肢を視野に入れるべき」との談話を発表しました。このままでは都議選での惨敗が予想されるため、“菅五輪”との心中路線から立場を変えつつあるわけです。これは、小池知事が中止を提言するための布石となる可能性もある一方で、選挙前のパフォーマンスにとどまることも考えられます。
(構成=編集部)