声を上げることができない留学生たち
もちろん、外国人の配達自体に問題はない。ただし、留学生のアルバイトには「週28時間以内」という法定上限がある。販売所の仕事は、定時のシフト制ではない。朝夕刊の配達に加え、広告の折り込み作業などをしていれば、販売所がよほど注意しない限り、仕事は「週28時間以内」では終わらない。
しかも購読者減少の影響で、販売所の経営は軒並み悪化が著しい。人件費を節約しようと、配達区域を統合する動きも増えている。ホアン君の販売所でも最近、区域が統合された。その結果、彼の担当区域は広がり、配達する朝刊の数も数十部増えて400部近くになった。
ホアン君は朝刊配達を3時間ほどで終える。筆者は彼の配達に同行した経験があるが、驚くほどのスピードだった。休憩もまったく取らず、ひたすら自転車をこぎ続けていた。つまり、どんなにがんばっても「週28時間以内」では終わらない仕事を割り振られているのだ。
現在、配達現場では、原付バイクや電動アシスト自転車を使うのが大半だ。同じ販売所で働く日本人も原付バイクで配達している。しかし、彼を含む5人のベトナム人留学生には自転車しか与えられていない。「ベトナム人」というだけで差別を受けているのだ。
ホアン君の働く朝日新聞販売所は、残業代なしの違法就労と自転車による配達についてどう考えているのか。経営者に取材を申し込むと、書面でこう答えてきた。
「今後とも、法律を守るように努めます」
具体的な返答は一切ない。反論しようにもできないのである。
残業代を支払えば、販売所は違法就労を認めたことになる。その点を逆手にとって、残業代を支払わない。一方で、ホアン君らは不満があっても、声を上げることもできない。販売所とトラブルを起こし、ベトナムへと強制送還されることを恐れているからである。
ホアン君を採用した朝日奨学会東京事務局にも認識を問うてみた。以下、ファクスで送られてきた回答の一部である。
「外国人奨学生が在店する朝日新聞販売所(ASA)には、『毎週少なくとも1日の休日を与えなければならない』とする労働基準法や『週28時間以内』の勤務時間を定めた入国管理法(※入管難民法=筆者注)の順守を、日頃からさまざまなところで呼びかけています。ASAはそれぞれ独立した企業ですので、個々のASAでの労働環境について逐一把握しているわけではありませんが、外国人奨学生からの相談があった場合は、奨学会として真摯に対応しています」