たとえば明治の『コーンソフト』ですと、2005年には10g中0.9gのトランス脂肪酸が含まれていましたが、10年には0.2gまで減り、今年3月には0.1gに半減しました。雪印メグミルクの『ネオソフト』にいたっては14年の時点で0.08gでしたから、私からすれば、もはや問題視しなくてもいいレベルです。各社の企業努力は評価されるべきでしょうし、トランス脂肪酸は正直、私のようなジャーナリストが追いかけるテーマとしては面白みに欠けてきている感さえあります」
代替品のパーム油使用の是非
では、乳業メーカーが対策を続けている理由はどこにあるのか。明治広報部は、次のとおりり回答した。
「アメリカで部分水素添加油脂の使用が規制されるという報道があった15年度から17年度にかけ、日本のマーガリン市場は約2割縮小し、弊社の家庭用マーガリン類も市場並で推移しました。当時はお客さまの不安払拭に向けた情報発信が足りなかったのだと考えており、その反省を今回のリニューアルにも活かしております」(明治広報部)
トランス脂肪酸に対して世間が抱くマイナスイメージは、乳業メーカーにとって予想以上の痛手だったのだろう。中戸川氏はこう語る。
「これは国がわざわざ部分水素添加油脂を規制しなくても、約2割の消費者の不買がメーカーを動かしたという、いい事例なのではないでしょうか。買い物は、やはり一種の投票だということですね。とはいえ、今回のリニューアルでマーガリンやショートニングの売り上げが回復しても、それは一時的なものになる可能性があります。なぜかというと、これらの商品からトランス脂肪酸を抜く代わりに使われるのは大抵、植物油脂であるパーム油だからです」
中戸川氏いわく、パーム油にはトランス脂肪酸とはまた違ったリスクが指摘されているそうだ。
「同じグラム数で比べるならトランス脂肪酸のほうが危ないと思いますが、パーム油はパーム油で、大腸がんや糖尿病の発症率が上がったなどという動物実験の結果が報告されています。農林水産省のウェブサイトにも『米国農務省(USDA)は、食品事業者にとってパーム油はトランス脂肪酸の健康的な代替油脂にはならないとする研究報告を公表しています』との記載があります。
明治は今回、パーム油を使った新ブレンド油脂によってトランス脂肪酸の低減に成功したとのことですが、それはマーガリンの売れ行きを維持するための苦肉の策だったはず。しかし、明治のような大手がトランス脂肪酸からパーム油に移行すれば、ほかの企業も追従せざるを得なくなるでしょう。パーム油に切り替えても今までの品質を保てるかどうかは、大手ほどの技術力を持たない中小企業にとって、かなりの死活問題です。
また、パーム油の生産にあたっては熱帯雨林を伐採し、アブラヤシ農園を開発することになります。パーム油を使った商品は、環境問題に関心のある人からも嫌われてしまいかねません」
ちなみに明治と同じく大手食品メーカーの雪印メグミルクは、「当社では、今年3月に家庭用マーガリン類のすべての商品において、部分水素添加油脂を使用しない配合を実現しております。この商品改良では、部分水素添加油脂の代替としてパーム油は使用しておりません」としている。
今後はパーム油の問題も大きく取り沙汰されていくかもしれない。
(文=A4studio)