なんでもかんでも「差別」はだめなのか?
このように、国が法律をもって国民を差別することは禁止されているのですが、良いか悪いかは別として、現実問題として男女差別や人種差別なんて世の中にはいくらでもあるわけです。これらが全部、「憲法第14条に違反する」とされると、実は結構めんどくさいことになります。
とても身近なところにフォーカスしてみます。
標準モデルを使用している企業の就業規則には、労働基準法第68条の規定に基づいて「生理休暇」が規定されています。女性だけ国の政策によって「生理を理由とする法定の休暇」が法律によって認められているのですが、これも「女性だけ」という点を考えれば「国民を平等に扱っていない」ので憲法第14条に違反することになってしまいます。また、お茶の水女子大は国立大学ですが、女性しか入学させないというのも「差別」になってしまうかもしれません。
しかしながら、これらの現実的な差別を、いちいち憲法違反だと言いだしたら、世の中回らなくなってしまうことは明らかです。そのため現行憲法が制定されてから今日までの間に、頭のいい憲法学者の方々は「いやいや、絶対的に『差別』がダメというわけではなくて、その法律や制度をつくる際に、合理的な目的があって、その目的を達成するために最小限の手段で行う『差別』は良いのよ」とか、「合理的な目的と、最小限の手段と、さらに、その手段がきちんと目的達成に役立っているという実質的な関連性が必要なのよ」などと、議論してきました(難しいので詳細は割愛します)。
結局のところ、「『差別』は絶対にダメ」というわけではなくて、「差別」をするためのしっかりとした理由があって、その「差別」が理由に合致していれば、「差別」も許されるわけです。
私企業や私大ならいいのか?
前述のとおり、憲法第14条は国による「差別」を禁止しているので、私企業や私立大学が性別を理由に「差別」しても、いきなり憲法違反ということにはなりません。
もっとも、ある企業が女性だけ定年退職の時期を早めたことについて、最高裁判所は「公序良俗を定める民法第90条に違反する」として、そのような取決めを無効とした例もあります。したがって、私企業などが「差別」的なことをした場合には、あとからそれが「違法な差別」として、ペナルティを受ける可能性があります。