「真相究明の会」の奇妙な主張
森氏は、講談社ノンフィクション賞を受賞した『A3』において、オウム真理教の起こした事件は「弟子の暴走」であって麻原は無罪だ、という一審弁護団の主張を支持することを表明している。これに対しては日本脱カルト協会と、滝本氏、青沼氏、フォトジャーナリストの藤田庄市氏の抗議書が出された。この本が、裏付けもないまま事実関係を大きく歪めて書かれているとして、賞を授与した講談社と選考委員に抗議し論争に発展した。その選考委員の一人は、オウム教団の拡大に寄与したと指摘されている中沢新一氏である。
「今は『弟子の暴走』論は隠しちゃってますよね。『弟子の暴走』と『集団の暴走』では、まるで意味が違いますから。一方で『A3』には、細かいところでは麻原が指示したようにも書いている。『A3』自体が矛盾しているんです。なぜあれがノンフィクション賞をもらうのか不思議ですよ。案の定、オウム教団はしっかり利用しています」(同)
死刑についての態度はどうか。滝本氏が理事を務める「日本脱カルト協会(JSCPR)」は、麻原の弟子の12名に関して「12名の死刑囚のなかには、自分が過ちを犯すに至った過程をつまびらかにする手記を獄中から発するなどしている者もおり、オウム真理教の犯罪のうち最も凶悪なものを実行した当事者である彼ら以上に、オウム真理教の実態についての情報を社会に伝え得る者はいない」「12名の死刑囚は、死ぬまでオウム事件及び同事件への自らの関わりを分析・反芻させ、心情の変化を折に触れて公表させていくべきであり、これ以上の償いの形はない」として、12名に死刑を執行せず、無期懲役刑に減刑する恩赦を検討する要請書を今年3月15日、上川陽子法務大臣に提出していた。
一方、「真相究明の会」は麻原の死刑回避は語っていたが、12名の死刑囚には一切触れていない。このことも江川氏は批判していたが、森氏はその批判を「僕は卵焼きが好きだ。でもおまえは卵焼きに関心がないのか、といきなり言われる。なぜですか、と訊けば、今日の弁当に卵焼きが入っていないからだと断定される。……無理やりな比喩としてはそんな気分だ」と釈明している。
「12名の弟子たちは、オウム真理教に出会わなければ、犯罪行為はもちろんしないし決して死刑囚になどならなかった人々です。それを卵焼きだなんて、変な比喩ですね。人の命をなんだと思っているんだろう。要するに三女(松本麗華・アーチャリー)と同じスタンスなんです。彼女も麻原のことばかりで、12人のことはまず言わない。アレフも同じで、『弟子の暴走』論が底流に流れている『真相究明の会』が12人のことを言わないのは都合がいい。彼らの記者会見は、アレフの記者会見かと思いますよ。『真相究明の会』は1回の記者会見だけで何も活動はしないようですが、あれだけ多くの人が賛同したということが残せればそれでいいんです。それだけで、アレフの勧誘材料になります。よくわからないで、呼びかけ人、賛同人になっている人も多いでしょうが、降りないでいいんですかって聞きたいですね」(同)
アレフの攻撃対象にされている滝本氏
滝本氏といえば、自身の空中浮揚写真が有名である。麻原の空中浮揚写真が超能力によるものではないことを、1枚の写真で証明したのだ。どのようにして撮られたものなのだろうか。
「修行したんです(笑)。結跏趺坐が組めないといけないし、ある程度筋肉も必要だし痩せていないと。畳か絨毯の上で前のほうに飛ぶつもりで飛べばいいんですよ。それを下のほうから写真に撮る。5~6枚撮れば1枚や2枚、うまく撮れます。あの写真が、未遂に終わったけれど私に対するサリンによる殺害計画の動機になりました。オウムは笑われるのが一番嫌なんですよ。それで私はポアリストナンバー1になったのです。私を敵視しているのはアレフになっても同じで、2013年に公安調査庁がアレフの教団施設に立ち入り検査した時に、公安調査庁長官や職員、警察官、著名なオウマー西村さんらの写真とともに、私の写真もナイフで串刺しにされていたのが確認されました。公安調査庁が調査に入る時に、それを隠しもしないで置いていたわけですよ。
アレフは、『全部でっち上げ』とまず言い、次に尊師の指示に従わなかった弟子の暴走、弟子が忖度して弟子が勝手にやったんだという言い方で、さかんに勧誘材料に使っています。悪い人は全員捕まって、残っている人たちはいい人たちだと思って入信している人も多い。だけど麻原の教えは脈々と生きています。いきなり化学兵器なんてつくりはしないけれど、内部の事件から始まってまた悲劇が起こっていく可能性は多分にあります。マッチとマッチ箱のガソリンがあればテロはできますし、混ぜれば毒ガスになる市販されていた薬品もあります。新たなグルが出て、エスカレートしていくのが心配です。教団を増長させないためには、事実に目を開かせないといけないんです」(同)
13人への死刑執行が強行された今、議論はさらに深められるべきだろう。
(文=深笛義也/ライター)