和歌山市で、CCCが指定管理者として正式に選定されたのは昨年12月だが、それよりも半年以上前の5月、新図書館の基本設計が発表された。その基本設計を担当したのは、アール・アイ・エー(RIA)という設計事務所だった。
ツタヤ図書館問題に詳しい関係者であれば、RIAという名前を聞いた瞬間に「指定管理者は、CCCに決まった」と気づいただろう。
なぜならばRIAは、CCCのフラッグシップ(旗艦店)となった代官山蔦屋書店をはじめ、その後もCCCが指定管理者となった海老名市立中央図書館の大規模改修や、多賀城市立図書館の新築プロジェクトの設計も手掛けるなど、両者は深い関係にあるからだ。そのため、「和歌山市もツタヤ化するのは決まりか」との声が上がっていた。
そして、実際にその通りになった。では、どのように建物の基本設計業者をRIAに決めたのかを探ってみたい。
多賀城市などの先行事例をみていると、建物の設計がスタートする時点で、すでに図書館の指定管理者はCCCに内定していた。その不透明な随意契約が批判されたこともあり、和歌山では広く運営者を公募するかたちをとっていた。だが、公募の半年前に、RIAが基本設計を担当したことが判明した時点で、出来レースだったのではないかとの疑いが浮上してくる。
市民図書館建設について和歌山市に問い合わせたところ、意外な事実が判明した。
市民図書館が移転する南海和歌山市駅の新しい建物は、市が主体となって建てているわけではないという。地元有力企業の南海電鉄が施主となっており、そこに国や県、市の補助金が投入されるスキームになっていたのだ。建物完成後に、市が図書館部分のみ南海電鉄から買い取る予定だという。
最近はやりの民間企業の資金やノウハウを活用して社会資本を整備する、いわゆる「PPP(官民パートナーシップ)」の手法を用いたプロジェクトといえるだろう。
このプロジェクトに投入される補助金の額に驚かされる。都市再生課によれば、図書館が入居する公益施設棟も含めた駅前再開発プロジェクトには、国から32億円、県から14億円、市から18億円の合計64億円もの補助金が投入されることが決まっている。
南海電鉄は、総事業費123億円のビルを、自己負担半分で建てられることになる。
問題は、どのようにしてRIAが基本設計の事業者として選定されたのかだが、困ったことに、これがどこに聞いても、さっぱりわからなかった。
通常の公共施設の建築で、さらに巨額資金が動く計画ともなれば、事業者の選定プロセスは、そのつど事細かに公表される。だが、和歌山市の場合、民間が主体となった開発プロジェクトであるため、市に問い合わせても、「直接関与していないのでわからない」としか回答を得られない。
そこで筆者は今年2月、南海電鉄に問い合わせたところ、同社の担当部署は「設計事業者は公募して、応募のあった4社のなかで一番(見積額が)安かったRIAにした」と回答した。ところが後日、再度確認すると「公募はしていない。複数社から見積もりをとって、最も安い事業者を選定した」と前言を訂正した。
さらに詳しい経緯を質問しても「何社から見積もりをとったかは言えない」、公募しなかった理由についても「われわれのやり方で足りると思ったから」、公表しない理由についても「特に必要性は感じていない」と、詳細はぼかす回答に終始した。
公金が60億円以上も投入される公共施設の建設プロセスが、すべて闇の中ということが許されるのだろうか。
筆者が「税金が投入され、完成後は市の施設になる予定の図書館について、市が何も知らないのはおかしいではないか」と問うと、市側からこう回答があった。