担当部署によれば、全面黒塗りされているのは大半が建築図面らしいが、どれも真っ黒のため、添付されている資料のどこからどこまでが図面だったのかもわからない。そもそも、これだけの会議資料があるにもかかわらず、全体の目録も作成されておらず、市の保管資料としての整理番号がないうえ、開示資料単位でページ番号さえ振られていない。驚くほどずさんな文書管理だ。そのため、これが会議資料のすべてである保証もない。一部廃棄や改竄されていてもわからない状態だ。
開示した市民図書館に、その点を相談すると「議会に提出したリストをみれば、すべてかどうか検証可能」との助言を受けた。そこで、市議会事務局にも、同じ趣旨で開示請求をかけたところ、48枚の資料(議会報告用サマリー)が開示されたが、議会に報告するようになったのは16年以降のため、関係者会議が始まった14年からの40回分は、サマリーすら保管されていなかった。
結局、黒塗りだらけの文書を見るしかないわけで、内実はまったくわからない。
RIAが基本設計者となった不透明な経緯
さて、ほとんど黒塗りされていた1400枚の会議資料のなかでも、わずかに読める部分のデータをつなぎ合わせて詳細に分析したところ、このプロジェクトが明らかに普通ではないと思われる箇所がいくつか見つかった。
まず、調整会議の場に14年の第4回めから早くもRIAが出席していることである。調整会議は、公的な補助金を受ける南海電鉄が市と県にプロジェクトの進捗状況を毎回報告して、重要なことについては両者に承認を得る仕組みになっている。
したがって、南海がもし設計業者にRIAを選定したのだとしたら、その経緯を市と県に報告しているはずだが、開示文書の読める部分には、その点の記載がない。巨額の税金が投入されているプロジェクトにもかかわらず、南海はコンペも行わずに決めたのだろうか。
南海電鉄に確認したところ、複数社から見積もりをとった結果、RIAを基本設計者に決定したのは16年8月だという。それ以降なら、南海側の代理人として三者会議にRIAが同席していてもおかしくはないが、駅前再開発のプロジェクト全体について話し合いを始めようという14年7月に、早くもRIAが出席しているのは不可解だ。
その点を和歌山市都市再生課に確認をしたところ、驚くべきことが判明した。
筆者は、RIAが契約を結んでいたのは、てっきり施主の南海電鉄だと思い込んでいたが、基本設計を手掛ける前は、和歌山市が直接RIAと委託契約を結んでいたのだ。
市関係者がこう漏らす。
「総額328億円の和歌山市再開発計画全体について、資金計画の算盤を弾いたのはすべてRIA。そのうえで、基本設計、実施設計、施行監理と、一連の流れをすべて一括でRIAが担うことになっていた」
そうだとしたら和歌山市は、再開発コンサルタイトにRIAを選定した経緯をどこかで発表しているはずだが、筆者が調べた限りでは、そのような発表はどこにも見当たらなかった。
さらに、再開発計画全体をRIAが担当したとしたら、設計事業者にもRIAが選定されるプロセスは公平性が担保されていないのではないか。この点を精査すべく現在、RIAとの契約について和歌山市に情報開示請求をしているので、詳細がわかり次第、報じる予定だ。
当初からRIAは、市のコンサルタントとして駅前再開発計画の資金計画を立案していたことにほかならない。そこからトータルにこのプロジェクトに関与してきた。いわば言葉は悪いが、RIAは和歌山市にとって、国からカネを引っぱってくる「補助金コンサルタント」のような存在だったのかもしれない。
和歌山市民図書館の指定管理者がCCCに決まる何年も前から、CCCと関係の深い事業者がこのプロジェクトに深く食い込んでいて、賑わい創出を目的としたツタヤ図書館誘致に、重要な役割を果たしたと考えられる。
ツタヤ図書館ありきのプロジェクトだった?
さらに興味深いのは、調整会議が14年6月にスタートして5カ月後の11月13日、和歌山市・県と南海電鉄の三者による、合同の行政視察が行われていることだ(同年10月3日の調整会議で視察予定を告知)。
出掛けた先は、なんと佐賀県・武雄市。ツタヤ図書館第1号の武雄市図書館・歴史資料館のある市だ。
武雄市をはじめとしたツタヤ図書館への視察は、各地の議員団が遊び半分で連れ立って出かけるケースは珍しくもないが、市の担当者が県や民間企業と合同での視察となると話は別で、かなり異例だ。
筆者は、この事実を知ってすぐに、和歌山市に対して担当者が武雄市視察で出した復命書(報告書)を開示請求した。しかし、担当部署から返ってきた回答は、「復命書は1年で廃棄することになっていますので、ありません」というものだった。
では、職員が同行したはずの和歌山県に残っているのではないかと、和歌山県にも同様の内容で開示請求を行ったところ、同じく廃棄のため「不存在」との回答だった。
市当局の行政視察に筆者が敏感に反応したのには、理由がある。ツタヤ図書館として16年に新装開館した宮城県多賀城市立図書館のケースでは、CCCが指定管理者に決定する1年以上前に、市教委スタッフが武雄市へ視察と称して出掛け、まだ何も決まっていない段階で、CCCと会談していたのだ。このとき、実務的な打ち合わせまで行っていたのに、市教委は議会で視察内容を報告する復命書は「ない」として、隠蔽していた。
ところが、図書館がツタヤ化されることを快く思わない内部の人物が、あとから匿名で復命書の全文を暴露したことで、市教委とCCCが会談していた内容が明らかになった。
市民の見えないところで、自治体は公募もせずに、あからさまに一民間事業者と癒着している構図があぶり出された格好だ。
和歌山市のケースでも、関係者の行政視察は、その事件を彷彿とさせる。各地にオープンしているツタヤ図書館は、手の届かない高い書架に象徴されるように特殊なつくりになっているため、建物の基本設計段階からCCCが絡まないと実現困難なものだといわれている。そのため、指定管理者コンペの半年前の基本設計が発表された頃には、和歌山市はすでに指定管理者をCCCにすることを決めていた可能性は高い。
その点は次回以降、さらに詳しく見ていくことにする。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)