・日曜日(9月30日)にデニー玉城氏が選出された時、メッセージは極めて明確であった。多くの他の選挙と同じく、この選挙は沖縄米軍に対する住民投票でもある。玉城氏は反基地同盟を代表し、対立候補は自民党によって大幅に支援された。この選択が特筆すべきなのは、玉城氏は日本人の母と米海兵隊員であった父との子供であることである。
・中国がこの地域に腕力を示しているなか、多くの日本人は米国との同盟を支持している。問題は最も貧困な県である沖縄に不均衡な負担を背負わせていることにある。沖縄は第二次大戦中もっとも悲惨な戦場であった。現在33の米軍施設を持ち、在日米軍5万人の半分がいる。米軍の集中は騒音、汚染、人的攻撃、特に1995年の12歳少女への暴行事件を招いた。
・この事件後、日米は宜野湾市における海兵隊基地を、人口過疎地域やグアム、ハワイへ移転することを決めた。しかし、なんらの移転はなかった。地域の抵抗や辺野古湾の環境破壊もあって、新基地建設をやめてきた。
・米軍は沖縄基地の日本国土への拡散は、東シナ海での対応能力を減ずると論じている。 しかし、日本とこの地域にもたらす安全は日本での最貧層の人々に対する不公平な、不要な負担という犠牲の上にもたらされるべきでない。安倍首相と米軍司令官は公平な解決を見いだす用意をもって、彼らに加わるべきである。
また、10月5日付琉球新報は『米、大差に「驚き」 県知事選 移設堅持も変化の兆し』との標題の下、「米政府は辺野古移設堅持の姿勢を崩さないが、安倍政権が全面支援した佐喜真淳前宜野湾市長に8万票余の差を付けた玉城氏の大勝は、政府関係者も『驚き』と受け止める。在沖米軍基地の安定運用も踏まえ、識者らは『沖縄の選挙結果に敬意を示すべき』『安倍政権が辺野古移設の工事を強行すれば、県民の怒りは一層高まる』と、日米同盟への影響を危惧し、玉城新知事と日本政府との対話に注目している」と報じた。
(3)安倍政権は憲法改正と沖縄問題にどう対応するか
今回の沖縄知事選挙の大きな特色は、公明党員の造反である。本土からの公明党員もこの造反に加わった。こうしたなかで、自公協調で改憲に向かうのは難しくなった。安倍政権としては、当面、単独で改憲の動きを行っていかざるをえない。
政府は、沖縄県の辺野古工事差し止めを法廷闘争に持ち込みたい意向を有している。数人の裁判官の判断で民意を覆えすことはあってはならない。そうなれば裁判所は政府の意向を実施するだけの機関ということになり、三権分立の自殺行為でもある。
(4)東アジア全体の情勢に、いかなる影響を与えるか
米国にとっては、沖縄における海兵隊基地より、嘉手納空軍基地のほうがはるかに重要である。普天間基地移転問題がこじれ、全沖縄に反米軍感情が出るのを懸念している。
その意味で、日本政府が県民感情を大きい理由として、普天間基地の移転を「最低でも県外」の方針で対米交渉すれば、その実現の可能性はある。しかし、米国軍産複合体の影響力が強い安倍政権としては、とても再交渉する勇気はない。したがって、沖縄県内の政治的不満は今後も継続し、ときに激化しようが、米軍の基地の情勢には変化はなく、今回の知事選挙が東アジアの軍事情勢に影響を与える段階ではない。
(文=孫崎享/評論家、元外務省国際情報局長)