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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第36回

匿名の手紙とせんさく好きな情報通が、大手新聞記者の平穏な日常を揺るがす!?

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 「帰ってきたわよ。先週末に姿を見せたわ。夕方で、深井さんと入れ違いだったかしら。私も午後5時半の定時で帰ったので、一緒だったのは15分くらいだったかな。でも、また関西方面に2、3日出かけると言っていたわね」
 「今週も姿見せるかな」
 「今日はまだ、関西にいるかもね。でも、今週後半には東京に帰っているんじゃない?」
 「帰れば、立ち寄る? 舞ちゃんはどう思う?」
 「それはわからないわ。だって、あの人、神出鬼没だもの」
 「そうか。どっちにしても、今日明日、立ち寄ることはないと思った方がいいんだね」
 「立ち寄っても今週末くらいじゃないの」
 美舞の返事を聞いた深井は書庫のドアを開け、中に入った。

●新聞業界の歴史を調べ続けている深井

 書庫には、終戦直後から昭和60年代までのジャーナリズム関係の書籍・雑誌はかなり揃っているものの、平成以降は、資料費をカットしたため、寄贈された書籍・雑誌がアトランダムにあるだけだ。戦前のものについても、戦災で焼失したせいもあってか不揃いだ。

 しかし、暇にまかせて、わが新聞業界の歴史を一から調べようと考えている深井にとっては、それなりの役に立っている。とにかく、他に利用する人がほとんどいないわけだから、書庫は深井の私的図書館のような存在ともいえた。

 読むべき書籍は自席にあり、書庫に入って探す必要はなかった。しかし、閲覧用テーブルのところに立ち止まって美舞と話を続ければ、彼女が席を立って、テーブルに出張ってくると思ったからだ。そうなると、30分以上は、彼女の相手をしなければならない。

 書庫に入ったのは美舞から逃れるのが目的で、持ち出したい本はない。しかし、すぐに自席に戻るわけにもいかない。

 《俺のところに出した奴が吉須さんにも出したに違いない。でも、中身も同じなのかどうか。付録の『別紙・参考資料』は大都に限った不祥事やスキャンダルがまとめられていた。それは俺が大都のOBだからだ。でも、吉須さんは日亜OBだ。日亜だって大都同様に不祥事やスキャンダルまみれだ。付録が同じとは考えにくいな…》

 そんなことを思い描きながら、書棚を見て回ったが、吉須と会わない限り埒が明かないことは明らかだった。そして、新聞業界の社史をまとめて収容している書棚から、「国民新聞六十年史」を抜き出した。

 「大都新聞百年史」と「日々新聞五十年史」を手元に置き、読んでいる最中だ。「国民新聞六十年史」を持ってきても、取りあえずは積読になる。退屈しのぎか、鵜の目鷹の目でみている美舞の目をごまかすには、書籍を持たずに書庫から出るわけにはいかない。

 「国民新聞六十年史」を小脇に抱えて、書庫を出ると、ブースの席につき、読みさしの「大都新聞百年史」を開けた。ページをめくるが、集中できない。それでも、30分くらいは「大都新聞百年史」と格闘し続けたが、我慢できずに席を立った。
 「ちょっと、一服してくる。いいね」
 「早く戻ってね。私も一服したいから」

 深井同様に喫煙家の美舞はくぎを刺した。しかし、屋外に出る深井と違い、美舞は日亜オフィスビルの地下1階にある喫煙ルームに行く。

 深井は受付のところで立ち止り声をかけた。
 「1時間くらい帰ってこないかもね。本屋にも寄ろうと思っている。舞ちゃんは地下1階に行くんだろ。10分かそこらじゃない。鍵を締めておけばいいさ。どうせ、誰も来ない」
 「そういうわけにはいかないわよ。一応、開館中ですからね」
 「わかったよ。できるだけ早く戻るけど、本屋に寄るから20、30分じゃ戻れないな」

BusinessJournal編集部

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