ところが、肝心のTRCの動きは驚くほど鈍かった。「TRCが単独応募したら全面支援しますよ」というメッセージをTRCサイドに伝えていた議員がいたにもかかわらず、どういうわけか、TRCは、そうした自主的な応援団の働きかけに対して、ポジティブな反応をほとんど示していなかったこともわかっている。
このあたりの矛盾したTRCの動きを、ある図書館関係者は、こう解説する。
「TRCの行動は、一見矛盾しているようにみえますが、姿勢は一貫しているんです。それは“カネのためなら、なりふり構わない”という姿勢です」
3年前、CCCが不適切選書問題を起こしたとき、もしあのまま黙って継続していたら、JVを組むTRC自体も大打撃を受けていたはずだという。
「JVは『CCCの良いところとTRCの図書館運営ノウハウを合体させて、新しい図書館をつくる』と宣伝して、自治体に営業をかけていました。そこに起きたのが“ゴミ本”問題です。被害者は海老名市民ですが、JVの構成企業として片棒を担いだとみられるのは、TRCにとって耐えがたい屈辱です。営業活動も足が止まるし、名声も地に落ちます。そのような危機感があったからか、石井社長はCCCとの決別を発表しました。向こうを張って大見得を切ったわけですが、結果、これが成功しました。これによってCCC=ヒール(悪役)、TRC=善良というイメージが醸成されたわけです。TRCは危機を脱したばかりでなく、企業イメージを大幅にアップさせました」(同)
しかし、大向こうには受けても、TRC離脱宣言で海老名市長は激怒した。市長選を目前にして、政策の目玉であるツタヤ図書館で大問題が起きたうえに、TRCの離脱問題まで加わったことに危機を感じた市長は、TRC社長と会談を行ったといわれている。
「海老名市が指定管理をCCCとTRCに任せたのは、市長が強力に推すCCCの危険性を回避するために、TRCというお目付役が必要だとの危機意識からです。TRCの谷一文子会長は、リニューアル開館前の海老名市立中央図書館の講演会冒頭で『TRCがついているので、CCCには勝手なことをさせない』と挨拶しました。しかし結果的には、TRCは中央館から閉め出されて、一方でCCCは中央館を好き放題にしました。これは、海老名市がTRCとの約束を反故にし、CCCに加担して動いたからではないでしょうか。『もし市が(JV離脱というTRCの)契約不履行を責めるのなら、こちらにも反駁の用意はある』とにおわせる対応をしたのでしょう」(前出・図書館関係者)
当時、CCC、TRCと海老名市の三者で、具体的にどのようなやりとりが行われたのかは定かではないが、そこまで強硬だった離脱宣言をあっさり撤回したのだから、なんらかの密約があったとしても不思議ではないと、この図書館関係者は指摘する。
「市長が、TRCに対して、なんらかの保証を約束したと考えれば、TRCがすんなりと離脱を撤回したのも納得できます。すでに名声も得ていますから、矛を納めて市長と手を結ぶほうを選ぶのは、企業としては当然のことです」(同)
そして今回、3年前の「密約」が果たされたために、黙ってJVを継続したのではないかという憶測が出てきてしまうほど、TRCの行動は理解しがたいものだった。