PJルート上では昨年6月に大阪府北部を震源とするマグニチュード6.1(最大震度6弱)の直下型地震が発生したが、角田氏は「台湾から九州に達した熱エネルギーが熊本地震を引き起こした後に大阪府北部に到達した」と解説した上で「熱エネルギーはさらに日本海側に移動する」と予測している。
角田氏が注目しているのは、新潟県南部に位置する新潟焼山と富山県の立山のマグマ活動が活発なことである。当該地域では2007年3月に能登半島地震(マグニチュード6.9、最大震度6強)、同年7月に新潟県中越沖地震(マグニチュード6.8、最大震度6強)が発生しているが、熱エネルギーの移送の状況によっては今年上半期に直下型地震が再び発生する可能性がある。
首都圏に達するMJルートのほうも安泰というわけではない。角田氏は2017年後半に「2018年上半期に首都圏で直下型地震が起きる可能性がある」と警告を発していた。
その根拠は2013年の西之島(東京の南約1000km、MJルート上に位置する)の大噴火である。西之島の大噴火を引き起こした熱エネルギーは、その後2014年10月に伊豆諸島の八丈島(東京の南287kmに位置する)の東方沖でマグニチュード5.9の地震が発生させるなど、日本列島に向かって北上していると想定していたからである。
北上した熱エネルギーは首都圏直下ではなく千葉県東方沖で2018年7月にマグニチュード6.0(最大震度5弱)の地震を発生させたが、幸いなことに首都圏に大きな被害をもたらすことはなかった。
だが西之島ではその後も2015年や2017年に噴火が起きていることから、熱エネルギーの移送は続いている。このため角田氏は「2020年前半に再び首都圏で地震(マグニチュード6クラス)が発生する可能性がある」と予測しているが、次に起こる地震の震源が首都圏直下であれば甚大な被害が生ずる可能性がある。
熱移送説の元になる理論(熱機関説)は、すでに1960年代後半日本の地震学会で定説になりつつあったが、1969年に米国でプレート説が発表されると日本の研究者はたちまちこの理論の虜になり、日本全体がプレート一色となってしまったという経緯がある。
大規模地震の発生を予測することで世の中を騒がせるつもりは毛頭ないが、「日本の学者が熱移送説を顧みる日が一日も早く来てほしい」との願いから、拙稿をしたためた次第である。
(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)
【参考文献】
『次の「震度7」はどこか』(角田史雄・藤和彦著、PHP出版、2016年)