元広島女学院大学准教授の田井郁久雄氏もそのひとりだ。同氏は、出版界の通信記事を掲載する旬刊誌「出版ニュース」(出版ニュース社/2月下旬号)の記事『マスコミの図書館報道を検証する』のなかで、武雄市図書館に対する報道について、次のように厳しく批判している。
「武雄市図書館の来館者数は、図書館、蔦屋書店、スターバックスで構成される施設全体の来館者数で、図書館(単体)の来館者数ではない。図書館資料の貸出者数は16.8万人で、来館者数の18%であり、80%以上は貸出を受けていない。商業スペースの利用のほうがはるかに多くて、図書館はむしろ蔦屋書店をひきたてる役割だったが、92万人という数字は一人歩きして、いまだに『ツタヤ図書館』のPRに役立っている」
「ツタヤ図書館になって利用者は3.7倍に増加」などとメディアでは報じられたが、増えた来館者の大半は、図書館を利用しに来たのではなく、新しい建物を物見遊山で見物し、コーヒーを飲んで帰っただけというのが実態だ。図書館として利用した人の数は、驚くほど少ないという。
田井氏は17年10月、隣接地にこども図書館が開館した後の同館の年間貸出数と運営費などの関係を、こう分析している。
「本館のみの貸出数は、5年めにして改装前の旧図書館を下回っているのがわかる。(中略)貸出点数はこども図書館を合わせた数字でもすでに改装前のレベル近くまで落ちているが、その一方、指定管理料と図書館費は大きく跳ね上がっている」(下記グラフ参照)
【出典】「出版ニュース」(2019年2月下旬号)、田井郁久雄氏『マスコミの図書館報道を検証する』より
図書館の利用状況は低迷する一方で、運営にかかる費用は激増しているわけだ。それにもかかわらず、メディアはこうした事実を報じることなく、「斬新なデザインと、にぎわい創出が高く評価されたが、不適切な本の購入など、資料収集に問題があった」とステレオタイプな記事ばかり出して、問題を矮小化していると、田井氏は批判する。
また、田井氏は言及していないが、CCCの社員が恣意的に入館者を選んで、対面で行う「利用者アンケート」には、“ツタヤ化”された図書館に嫌気がさして利用しなくなった市民の声は一切反映されていない。館内の斬新なデザインに関しても、高層書架の上部には、多額の税金で調達した中身が空洞のダミー本を大量に設置している。つまり、見た目だけを重視するもので、これも批判が多い。
また、CCCが展開するTカードに関して最近、裁判所の令状なく捜査機関に対して会員情報を提供していることが話題になったが、個人情報漏洩リスクの大きさに比して、図書館利用者にとって目に見えるメリットがほとんどない。それにもかかわらず、図書館利用カードとされたことで、システム改修などに巨額の税金が投入されていることを疑問視する向きも少なくない。
CCCが運営しているツタヤ図書館では、そうした「優良誤認」が疑われるアピールポイントは、枚挙に暇がないほどである。
CCCに図書館運営を委託している自治体は、TSUTAYAの広告が優良誤認として違法認定されたことを重く受け止めて、事実に基づかない表現を即刻辞めさせるべきである。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)