4月より土曜ナイトドラマ『妖怪シェアハウス-帰ってきたん怪-』(テレビ朝日)の放送を控える映画監督・豊島圭介氏が、初の単著『東大怪談 東大生が体験した本当に怖い話』(サイゾー)を3月14日に上梓した。『東大怪談』は、東京大学出身者11人が体験した怖い話をまとめた本で、怪談を中心に、人怖、精神疾患、都市伝説、パラレルワールド、UFO、宇宙人などの数奇な体験が詰め込まれている。
自身も東大出身である豊島氏は、大人気ホラードラマ「怪談新耳袋」で監督デビュー。2020年に初のドキュメンタリー作品『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』を発表し、数々の映画賞を受賞している。『東大怪談』は東大卒という経歴を生かした2度目の作品だというが、その制作背景について語ってもらった。
――初めて本を書かれた感想を教えてください。
豊島 怪談を文章にする経験は初めてでしたが、ドラマ「怪談新耳袋」での監督経験がありましたので、深い取材と端正な文章力がないと務まらないタフな仕事になるだろうとは思っていました。それでも書こうと決意したのは、自分のこれまでの経験がすべて生かせると思ったからです。
大勢の東大出身者に声をかけて、体験談を聞いていったわけですが、さすが東大出身者というべきか、皆さん濃厚なエピソードをお持ちだったので、取材を始めてすぐに「この本はいけるぞ」と確信しました。心霊体験だったり、人怖だったり、精神病だったり……ものすごく濃い話を短期間で集めることができたのです。
――取材はスムーズにいった、と。
豊島 はい。ですが、そもそも世間の東大のイメージって、勉強がものすごくできるけど変わった人が多い、というものじゃないですか? コミュニケーションが取りづらかったり、いわゆる天才系の、頭はいいけど不器用な人が多い印象があると思うんですけど、その印象は間違っていなくて実際そうなんです。ですから、取材自体はスムーズにいったのですが、個性の強い人たちばかりでしたので、内容をまとめるのは大変な作業でした。どれも話が面白かったので、話の魅力を損なわないようにしなければというプレッシャーもありましたね。
――なぜ『東大怪談』を書かれたのですか?
豊島 頭がいいかどうかは別として、東大生は平均以上の科学的思考回路をもつ人間が多いのは事実です。ですから、ちょっとやそっとでは「これは霊現象だ」などと言わないはず。それでも「霊の仕業だ」という判断が下されたエピソードは、それなりの強度があると思ったからです。実際、みなさん知識が豊富な分、あらゆる考察をされていましたが、最終的に「やっぱり説明がつかない、これは心霊現象だ」という思考回路で体験を語っていました。
――本書には30代から60代まで幅広い年齢の方が参加されていました。年代別で何か傾向はありましたか?
豊島 年代別というか、生きてきた時代や職種が心霊体験に影響しているような気はしました。
――環境と霊現象はシンクロする……と? それは新発見です。
豊島 はい、かつて東大生だった彼らも、今は様々な仕事に就いていて、その業界を生きているわけです。そうすると業界でのノリみたいなものや、その世代のノリみたいなものがあって、それが心霊現象にも影響して顕在化するのでしょう。たとえば、「細胞生物に乗っ取られたコンサル」という回で語ってくれた経営コンサルタントの鈴木さんは、80年代のバブルカルチャーにどっぷり浸かった人ならではの、どこかお洒落で余裕のある怪談を語ってくれました。一方で、若い30代の人たちは不景気の中で生きてきたからか、怪談にも経済的な余裕が感じられないんですよね。
――例えばどんな話ですか?
豊島 「オカルト新聞記者」の吉澤さんの怪談からは、鈴木さんの話に垣間見られた「俺たちが日本経済を動かしてくんだ」「トップ企業に入るんだ」というような匂いは全く感じられませんでした。部活も仕事も一生懸命やって、一生懸命やりすぎて留年して、なんとか今の職業について……みたいな、必死さの方が勝っていて、そんな中で体験する怪異なわけです。個体差以上に、時代や世代の差を感じましたね。
ですから、僕が今回取材した感覚からすると、怪談と社会状況、つまり日本の豊かさや貧困と心霊現象には密接な関係があるということですね。その社会で生きている人が体験する話だから当然と言えば当然ですが。
――たしかに、幽霊は時空を超えて存在していますが、被験者はその時々の社会状況の影響を多大に受けていますからね。
豊島 そうですね。心霊現象と体験者の心の状況……もっというと、体験者の人生そのものが心霊現象と深く関わっているのだと、『東大怪談』を書いて痛感しました。この本には、心霊現象以外にも、東大出身者に「UFOは信じますか?」「陰謀論を信じますか?」「人間とは何だと思いますか?」などの質問をまとめた東大アンケートというものを掲載しています。これが非常に面白くて、「ああ、こんなこと考えている人が語った心霊体験なのか……」とまた別の読み方ができる構成になっているんです。怪談をただ怖がるのではなく、自分で読んで考察できるところが本書の面白みのひとつかなと思っています。
――ありがとうございました!