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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第62回

中断していた巨大新聞2社トップの不倫暴露作戦再開~“新聞業界のドン”からの呼び出し

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 その日も書斎のパソコンで新聞のサイトをみていた時、携帯が鳴った。着信番号で電話の主が太郎丸とわかり、深井の心はときめいた。待ちに待った電話だったからだが、太郎丸は用件をまくしたて、あっさり電話を切ってしまった。

 大都社長の松野弥介と日亜社長の村尾倫郎の不倫を暴く計画を再開する。ついては明日か明後日の夜、築地の料亭『すげの』で打ち合わせしたいので、同僚の吉須晃人と調整して連絡して来い、ということだった。取り付く島もなく、深井が大地震の話題など持ち出しようもなかった。しかし、一両日中に会えるわけで、お預けでもいいか、と思い直した。

 むしろ、この2カ月間、やはり全く接触のない吉須に電話するきっかけができたことを内心喜んだ。吉須との電話は大地震の直後の日比谷公園の出入り口でしたのが最後だった。その時、吉須の受け答えには「自分が資料室に姿を見せなくても、穿鑿するな。何もなければ電話もしてくるな」というニュアンスがあった。

 吉須は大地震以後、一度も資料室に姿を見せなかった。受付の開高美舞に電話してくることもなかった。何度も連絡しようと思ったが、躊躇ったのはそのためだった。しかし、「何かあったら、携帯に電話してくれてもいい」という吉須の別れ際の言葉が頭の片隅に残っていた。暴露計画を再開するという太郎丸からの電話は文字通り吉須の言った「何かあったら」であった。

 深井は書斎から出て、リビングに向かった。外は真っ白で、ベランダの向こうに雨が落ちているのがわかった。ソファに腰を下ろし、携帯電話を取り出した。受話器の向こうから聞き覚えのある吉須の声が聞こえてきた。

 「おい。何用かね。2カ月ぶりか。会長から電話でもあったのかな」
 「図星です」
 「それで、どうするんだい?」
 「明日か明後日の夜、この間行った築地の料亭に来てほしい、と言っています」
 「で、会長はどんな話をするつもりなのかね」
 「例の件を再開すると言っただけで具体的なことは何も言っていません。会えばわかるから、それでいいじゃないかと思いましてね…」
 「それもそうだな。俺は午後6時以降なら明日でも明後日でもどっちでもいい。でも、会長と会う前に2人で会った方がいいじゃないか」
 「そうですね。じゃあ、いつ会います?」
 「今晩でもいいぞ。今晩なら、会長とは明日の夜にすればいい」
 「じゃあ、今晩にしましょう。会長には『明日午後6時に伺う』と伝えておきます」
 「今日は午後6時、リバーサイドホテルのロビーでどうだ」
 「わかりましたけど、この2カ月間、吉須さんは何をしていたんですか」
 「まあ、その話は今晩でいいだろう」
 「今日も、資料室には立ち寄りませんね」
 「当たり前だろ。立ち寄って君と落ち合ったら、舞ちゃんがうるさいだろ。それに、変な奴もいるんだろうしな…」
 「じゃあ、午後6時ということで」

 通話を切ると、深井は太郎丸の携帯に電話し、明日午後6時に「すげの」に行く旨、伝えた。この時も、太郎丸は事務的な対応で、用件が済むと、電話を切ってしまった。リビングの窓際で外を眺めた。雨は本降りだ。資料室に出ても、タバコを吸いに外に出るのも億劫だ。となると、夕方まで美舞、伊苅の二人と一緒にいることになる。それも煩わしい。

 「今日は資料室に出るのは止めよう」

×××

 吉須と深井の二人がリバーサイドホテルのロビーで落ち合ったのは午後6時ちょうどだった。吉須の提案で、二人はホテル最上階の25階にある鉄板焼き「浜町」で食事をすることにした。スカイラウンジ「リバーサイド・スコッチ」と同じ階で、エレベーターホールを挟んで、反対側にあった。

BusinessJournal編集部

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