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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第62回

中断していた巨大新聞2社トップの不倫暴露作戦再開~“新聞業界のドン”からの呼び出し

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 店に入ると、楕円形のカウンター席に案内された。見回すと、時間が早いせいか、店内にはひと組の高齢の夫婦が食事をしているだけだった。

 吉須がサーロインのステーキのコースと、生ビールを注文、切り出した。

 「おい、今日は資料室には出勤したのかい?」
 「いや、今日は立ち寄りませんでした。大地震以来、僕も時々出勤しないんです。行く時も、午後1時頃のことが多いです」
 「4月からうちの伊苅がきたからか。それとも何か、やっているのか」
 「両方ですね。大したことじゃありませんけど、新聞社の経営形態の歴史について書く気になったんです。伊苅がいると、やりにくいんで、原稿は自宅で書いているんです」
 「ほう、どういう風の吹きまわしだい?」
 「折角、ジャナ研で勉強を始めたんだし、何も残さないのももったいないと思いましてね。いつ何が起きるか、わからないし…」
 「君はジャーナリズムの腐敗の元凶が経営形態にあるというのが持論だったな」
 「それより、吉須さんは何をしていたんです? 大地震から2カ月も全く音信不通だったんですから。まさか、またどこかに長期旅行に出ていたんじゃないでしょうね」

 吉須は質問に答えず、カウンターの向こうに広がる窓の外を見つめた。窓にはひっきりなしに雨が打ち付けていた。この時、ボーイが生ビールを運んできて、カウンターの中にも純白の調理服に身を包み、高いコック帽をかぶった中年の料理人が入ってきた。

 「電話で会った時に話すようなこと言っていたじゃないですか。教えてくださいよ」

 深井がグラスを持ち、吉須にも促した。吉須がグラスを取り、軽く上に掲げると、深井はビールをぐいっと飲み、吉須の眼を覗き込んだ。

 「…。実はね、今日の午前中は仙台にいたんだ。そこで、君の電話を取った」
 「へえ、仙台ですか。取材ですか」
 「もう取材はしないぜ。それは君と同じさ」
 「じゃあ、ボランティア?」
 「いや、仙台は違う。南半球の世界一周旅行で、知り合った人の所に行っていた」
 「被害はなかったんですか」
「そりゃ、あったさ。でも、山側に自宅があったんで、津波の被害はなかった」
 「それは不幸中の幸いでしたね」
 「まあ、そうは言っても、壊れはしなかったけど、自宅は相当修理しないとだめらしい」
 「それじゃ、まだ大変でしょう」
 「そうなんだが、船の中で、一度、仙台に行くって約束していたし、向こうが落ち着いたから、来い、っていうんでね。見舞いがてら行ったのさ」
(文=大塚将司/作家・経済評論家)

【ご参考:第1部のあらすじ】
 業界第1位の大都新聞社は、ネット化を推進したことがあだとなり、紙媒体の発行部数が激減し、部数トップの座から滑り落ちかねない状況に陥った。そこで同社社長の松野弥介は、日頃から何かと世話をしている業界第3位の日亜新聞社社長・村尾倫郎に合併を持ちかけ、基本合意した。二人は両社の取締役編集局長、北川常夫(大都)、小山成雄(日亜)に詳細を詰めさせ、発表する段取りを決めた。1年後には断トツの部数トップの巨大新聞社が誕生するのは間違いないところになったわけだが、唯一の気がかり材料は“業界のドン”、太郎丸嘉一が君臨する業界第2位の国民新聞社の反撃だった。合併を目論む大都、日亜両社はジャーナリズムとは無縁な、堕落しきった連中が経営も編集も牛耳っており、御多分に洩れず、松野、村尾、北川、小山の4人ともスキャンダルを抱え、脛に傷持つ身だった。その秘密に一抹の不安があった。

※本文はフィクションです。実在する人物名、社名とは一切関係ありません。

※次回は、来週2月14日(金)掲載予定です。

BusinessJournal編集部

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