福田 逆に、出版に携わってきた人がいきなりウェブの世界に参入してきても失敗しがちです。「電子書籍マーケットが伸びているから、iPadで雑誌をつくりました」などと電子書籍を出しても、ほとんど売れていません。多くの予算をかけてデザインしていますが、Kindle向けのオリジナル本にしても、端末の普及台数や読者の読書スタイルなど、利用する人たちの研究をせずに、雑誌の世界をそのまま翻訳して持ってきて失敗しているのです。
赤田 実は、電子書籍は1冊も買ったことがありません。
福田 まったく興味ありませんか?
赤田 いや、ほかに読む本がいっぱいあるんです。ストックしている本があるから、つい後回しになってしまうのが正直なところです。
福田 しかし、仕事のPRやマーケティングで利用したり、研究されたりはしないんですか?
赤田 ウェブに対する考え方と同じですけど、しかるべき人が頑張って頭使ってやればいいと思います。利用しようというのも、今のところはないです。私は、私の仕事である本をしっかりとつくって売って、とりあえずそれなりにお金をもらえればいいやという程度に考えています。
福田 少し前に携帯小説ブームがあった時、携帯文学賞をつくりました。これからは電子の時代で、ここから芥川賞作家が出るかもしれないから、見張っておこうと考えたのです。実際、はやりましたが、みんな高校生が書く半自伝みたいなもので、がんで死ぬか、交通事故で死ぬストーリーばかりでした。
赤田 『恋空』(美嘉/スターツ出版)と同じですね。
福田 しかし結局、本格派は出てきませんでした。それも編集者の不在が原因だったように思います。本格派を出すようなメディアに、ウェブがまだなりきれてないのです。それこそ、赤田さんみたいな本物の編集者がウェブのメディアにいないからだと思います。
赤田 いや、それは言い過ぎじゃないですか?
●出版社は効率化を追い求めすぎ?
福田 日本のコンテンツ力を発揮するために、ウェブの世界の問題もいろいろありますけど、出版の世界の問題点はなんでしょうか?
「ネット時代における出版社のあるべき姿」というと、凡庸な質問ですけど、何が足りないから出版不況になるのでしょうか? ある程度の大きさのマーケットはあるわけで、本が売れる環境はまだあると思います。
赤田 それこそ、世代交代で人が入れ替わったことが大きな要因ではないでしょうか。
福田 編集者とクリエイターの関係も変質しています。例えば、漫画家の赤塚不二夫の編集者は、ネタ出しと称して出版社よりもフジオ・プロに毎日通っていたといわれています。言ってみれば、マーベルコミック型の集団制作体制にあったわけです。今や、そんな関係はないですね。
赤田 はっきり言って、大手出版社はもう終わっています。オートメーションで漫画ができたら世話ないって思いますけど、秀才ばっかり採りすぎて、効率化ばかり追い求めているのではないでしょうか。
福田 無謀な話ですけど、世界で認められている日本を代表するアーティストたちに、今一番描きたいものを描いてもらうという企画も面白いのではないでしょうか。
赤田 危険な賭けのような気もしますね。
福田 危険は百も承知ですが、絶対に話題になるし、クールジャパンと呼ばれている世界も、そういう方たちがつくった、半世紀以上も人を魅了し続ける作品があるからです。たかが漫画、されど漫画。もうほとんど美術品と同じくらいの価値があると思います。
赤田 そういう過去も未来も含めて、クールジャパンですよね。
福田 なんだかキレイにまとまりましたね。面白いコンテンツの話がいっぱいできて楽しかったです。ありがとうございました。
(構成=編集部)
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