出版社だけでなく、物事を単純化するのではなく洞察することを旨としてきた大学でも、「なぜ、……は……か?」という思考が一部で見られる。
1990年代以降、新設を中心に「実学」を標榜する大学が増えたのとは逆に、近年は「教養を重視する」というところが増えてきた。「最近、教養に欠けた新卒者があまりにも多い」という経済界の声に応えた動きと考えられる。ビジネス誌でも「教養入門」(「日経ビジネス アソシエ」<日経BP社/10月号>)なる特集が組まれたほどだ。
●ビジネスに関する教養も実学の範疇
一方では、「実学を見直せ」というオピニオンも聞かれる(『実学教育改革論』(橘木俊詔/日本経済新聞出版社/2014年)。筆者は東京高等商業学校(後に東京商科大学=現・一橋大学)に続き明治期に教養、理論を重視した実学の府として設立された神戸高等商業学校(後に神戸商業大学、神戸経済大学=現・神戸大学)に関係していることもあり、橘木氏同様、職業を重視した戦前の高等教育と現在のドイツにおける教育体制には共感している。だが、教養か実学かという二者択一の議論に賛成しているわけではない。どちらかに偏重するのではなく、教養と実学の両方が重要である。いや、ビジネスに関する教養も実学の範疇にあると考えている。
筆者も大学生を実際に教え、さらには高校にも足を運び出前講義を行った際、日本の高等教育におけるビジネス教育があまりにもお粗末であることを痛感する。このままでは、経済大国日本であり続けることがますます難しくなってくるのではないかと心配される。
去る8月、岡山県下の高校の校長、教頭をはじめ教師が約150人集まる研修会で「高校生に『現実』のシャワーを浴びせよう―『ビジネス・リベラルアーツ』のすすめ」と題した講演を行った。このようなテーマで講演してくれとの依頼があるくらいだから、ビジネス教育に関する関心が高まっていることは明らかだ。とはいえ、高校だけでなく大学でも、実際にどのような教育を行っていいのか手探りのような状況である。