高校はもちろんのこと、大学でもまだ少ないのが実務経験者。だからして、経済界を中心に「企業で経験を積んだ人を教員に招けばいい」という声が出てくる。それは良いことである。かく言う筆者も企業で経験を積んだ。マスコミという環境に恵まれ、一般の人では会えないような著名な経営者たちと対話することができた。さらに、働きながら学位(修士、博士)を取得し、現在、大学で教鞭をとっている。つまり、「企業で経験を積んだ人」である。
●「実学重視」の落とし穴
しかし、「企業で経験を積んだ人」が教壇に立てば、薄っぺらではない理想的なビジネス教育ができるのだろうか。「実学教育」の名のもと、今、一部の大学(院)では、街場のセミナーのようなカリキュラムを導入する風潮が見られる。例えば、近年増えている「観光」「サービス」を冠にした学部、学科を中心に「ホスピタリティ教育」を謳い、マナーやおもてなしの講座をカリキュラムに取り入れている大学が少なくない。基本的な行儀さえままならない大学生が多い昨今の事情を鑑みれば、いたしかたないことかもしれないが、こうした内容がすなわちホスピタリティ・マネジメントであると誤解されていることを懸念する。
社会人が集まるビジネス・スクール(経営大学院=MBAコース)でさえ、時流に沿った講義が人気を呼ぶと考え、「企業で経験を積んだ人」が自身の経験や自画自賛型方法論を教えているところがある。その中には、学位を持たない部長クラスのサラリーマン・ウーマンが、修士以上の学位取得を目指す学生を教えている大学院が存在する。さらに驚いたことに、修士どころか学士だけの教員が、修士以上の論文審査に加わっている場合もある。「入学する時点では、そうした事実を知らなかった。大学院の先生なのだから、全員が博士(経営学か経済学)を持っているものだと思い込んでいた」という大学院生の声を聞いたことがある。ともあれ、大学院生は複雑な心境だろう。皮肉にも、そのような大学院はまちがいなく「実学重視」を謳っている。
今どき、大学教授(准教授以下も含む)になるには、学位(博士)を取得していることが必須条件である。公募などでは、ほとんどの大学が「博士を有していること」と募集要項に記してある。もし記していないとすれば、学位を持たない人が幅を利かせているめずらしい大学である。そのような大学では、学術的実績がなくても「有名だから」「若者に影響力がある」「(よくわからない表現ながら)発信力がある」といった点が評価され、博士をとっても就職で苦労している研究者(ポスドク)を尻目に、「えっ、なぜ」と思われる人が専任教員として採用されている。