「杭が支持基盤に刺さっていないことが判明」
「4棟構成のマンションのうち1棟(全長56メートル)が、両端で2センチメートル以上の差が生じている」
今回の横浜マンション傾斜事件の第一報は、かなり衝撃的だった。しかし、起こっている現象自体は、筆者から見ればかなり平凡に思えた。1999年に定められた「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(略称「品確法」)を元につくられた建設省告知による「技術的基準」によると、全長10メートルの建物で3センチメートルまでの傾斜は「レベル1」とされる。その内容は「構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性」が「低い」となっている。簡単にいえば「騒ぐほどのことはない」「許容範囲内ですよ」ということ。
今回、約1年前に建物が微妙に傾斜していることがわかってから、売主である三井不動産レジデンシャルが「東日本大震災の影響ですから大丈夫です」という言い訳をしてきた背景には、この技術的基準があるはずだ。
11年3月に発生した東日本大震災の直後、筆者はある大規模マンションの建築基準法違反を訴えた裁判の原告団を応援するため、その材料となる建築事例を探していた。そして、エキスパンションジョイントで住棟を連結した建物が、地震の際にいかに危険かを裁判官に知ってもらうため、大規模マンションに暮らす数人に協力を要請。実際にエキスパンションジョイントが大きくずれたマンションの現場をいくつか見に行き、何人かの住民の話を聞いた。
「このマンションを施工したゼネコンからは、『エキスパンションジョイントがずれるのは当たり前です。それによって揺れの力を逃がしているのですから』と説明されました。しかし、下手をすれば通った人が転落する事故にもつながりかねませんでした」
ほとんどの人が納得していなかった。しかし、その後にエキスパンションジョイントは管理組合の費用でつなぎ直されたはずだ。
住棟と住棟をつないでいるエキスパンションジョイントがずれたということは、どちらかの住棟が沈んだのか、もしくは浮き上がったのか。あるいはその両方だったのか。ともかくいくらかは傾いたことは確かだろう。筆者が見た限り、階によっては10センチメートルほどずれていたところもあった。あの情景を見ていたので「56メートルで2センチメートルの傾斜」と聞いた時に、「もっとひどいマンションはいくらでもあるはずだ」と、背筋に寒いものを覚えたのだ。