世界はロスチャイルド家に支配されているのか
—陰謀論には、世界を支配するという謎めいた集団や一族が登場します。その中でも、圧倒的な人気を誇るのがロスチャイルド家(18世紀ドイツを発祥の地とする、欧州のユダヤ系金融財閥)ですね。マネー陰謀論を研究する会は、陰謀論を尊重する立場ですが、本書では、まるで陰謀論否定論者のように、冒頭でいきなり「ロスチャイルド伝説=ロスチャイルド家が世界を動かしているという説」の真偽をはっきりさせようとしています。
野口英明氏(以下、野口) 最初にお伝えしたいことがあります。陰謀論は、私たち一般市民が、さまざまな出自の人間によって構成された政府上層部(政治家、官僚、彼らと利害関係で結ばれた業界団体のトライアングル)による権利・自由の侵害から自らを守る上で、有力な助けとなる重要な言論です。
にもかかわらず、世の中には「陰謀論」と聞いただけで眉をひそめ、嘲笑する人たちがいます。言論人の中にも、同様に反射的に「嘘だ」と決めつける人がいます。そんな状況がある中、伝説や思い込み、決めつけではなく、事実を基にした陰謀論を展開することで読者の信頼を得たいという思いから、まずロスチャイルド伝説の真偽に迫りました。その上で、本書のテーマである「中央銀行の通貨発行権による世界支配説は本当なのか」というテーマに取り組んだわけです。
ちなみに、陰謀論という言葉が負のレッテルとともに広まったのは、アメリカ政府諜報機関の工作によるものです。本書では、「ジョン・F・ケネディ大統領暗殺の犯人は、政府上層部だ」と主張する陰謀論者に対抗するため、CIA(中央情報局)が陰謀論を貶めるプロパガンダ作戦を指示した文書「一〇三五-九六〇」を掲載しています。
–どんなロスチャイルド伝説を検証したのか、教えてください。
野口 ロスチャイルドを語る上で避けて通れないのが、「ワーテルローの戦いで大儲け伝説」です。1815年6月18日、フランスのナポレオンが英国・オランダ・プロイセン連合軍に大敗しました。その際、当時のロスチャイルド家当主のネイサン・メイアー・ロスチャイルドが、ナポレオン敗北の知らせを独自の密使によっていち早く入手、その情報を隠し、英国債の取引で莫大な利益を上げたというものです。