–経済危機は、資本主義の「暴走」が原因という解説をよく耳にします。
野口 資本主義が原因ではありません。政府・中央銀行こそ経済危機を生み出す元凶です。事実、米国における不況は、連銀の設立前より後のほうが頻繁に発生し、その程度も戦前の大恐慌や最近のサブプライム・ショックをはじめ、より深刻になっています。中央銀行の金融政策が景気を安定させるという看板は、偽りだといわざるを得ません。
ずさんな陰謀論者は、政府が中央銀行から通貨発行権を取り戻せば、不況や貧困など経済問題のすべてが解決すると信じています。しかし、その考えは、中央銀行が私企業に支配されているわけではないこと、政府と中央銀行はすでに一体に等しいことから、間違っています。
問題の根源は、通貨発行を独占する組織が過剰なお金を刷り、人々の持つお金の価値を薄めることにあります。通貨発行権が中央銀行から政府に移ったとしても、お金を刷る量に歯止めをかけなければ、問題は解決しません。
–日本では現在、中央銀行の日本銀行による異次元の金融緩和政策が採られています。
野口 中央銀行がお金を無制限に刷ることを許すと、政治圧力を受けて政府の野放図な借金(国債)をいくらでも肩代わりできるようになります。そして、現在の日米欧各国にみられるように、軍拡や福祉に金をつぎ込むことで、政府の財政がどんどん悪化するのです。
経済評論家の中には、「自国通貨建ての借金で財政破綻することはない」と主張する向きがあります。確かに、形式的には正しいかもしれません。政府は中央銀行にお金を刷らせさえすれば、国債の利子や元本はとりあえず払うことができるからです。
また、増税することで元利払いの原資を集めることもできます。円がいまだに安全資産といわれるのも、こうした手段を使えば、国が財政破綻する恐れは低いと思われているからでしょう。
しかし、そのツケはいずれ、大増税や超インフレというかたちで国民に押しつけられます。実際、すでにその兆候が表れています。近い将来、年金の受給年齢が80歳からとなり、「支給するのだから、財政破綻はしていない」と強弁される可能性もあります。また「一億総老後崩壊」という言葉もよく聞かれるようになりました。一億人すべてというのは言いすぎにしても、国民の7~8割の生活が破綻したら、それは財政破綻より悪い事態といえます。