外壁の修繕工事では、このコーキング部分の補修も行う。つまり、通常のマンションなら施工精度によって大規模修繕は必ずしも十数年に一度も必要とされない。タイルの剥落や外壁の亀裂が生じていなければ、20年でも30年でも修繕の必要はないはずだ。ただし、外観の汚れはどうしようもないが。
ところが、タワーマンションではコーキング部分の修繕をしておかないと雨漏りの可能性が高くなる。特に湾岸エリアのタワーマンションは十数年ごとの大規模修繕が快適な暮らしの必要条件になりそうだ。
完成度もいまだに実験中
そして、この大規模修繕にはかなりのコストがかかる。通常のマンションなら大規模修繕のコストは戸当たり100万円がひとつの目安だが、タワーの場合は200万円台の半ば。タワーマンションはマンション市場の「流行り物」で、その時々の最新技術や人気設備を導入しているので、各物件によって費用が違いすぎる。プールや温泉がついているような豪華タイプだと、それこそ戸当たり300万円近くもかかるかもしれない。
それでも最初の1回目なら負担できるだろう。プールや温泉は20年、30年で老朽化が激しくなる。2回目、3回目の大規模修繕では、戸当たりの負担が300万円を超えて400万円に近づくかもしれない。ただ、まだ豪華設備を備えながら2回目3回目の大規模修繕を行ったタワーマンションの例はないので、そのあたりはあくまでも推測だ。
つまり、タワーマンションは通常のマンションに比べて当初十数年の間は修繕積立金が2.5倍程度。その後の10年から20年で3倍から5倍程度の修繕積立金負担が発生し、それは建物を取り壊すか建て替えるまで半永久的に続くと考えるべきなのだ。
そもそも、タワーマンションとは限られた敷地に多くの住戸を作るための必要悪として生まれた、と私は解釈している。だから、いかに設えようとその造形物としての存在自体は、よほど遠くから見ないと美しいとはいいがたい。近寄ると、眼下を睥睨しているような圧迫感が迫ってくる。きっとチャールズ皇太子も、そのようにお考えなのだろう。
そして、集合住宅としての完成度もいまだに実験中のようなものだ。今後発生する膨大なコスト負担や健康への危険性を考えると、多くの日本人はある日愕然とするかもしれない。にもかかわらず、多くの人々はタワーマンションへの憧れを捨てない。
「○○と煙は高いところに登りたがる」
昔の日本人はそういったらしい。今の日本人が○○でないことを祈るばかりだ。そしていつか、タワーマンションがイギリスのように低所得者向けの必要悪と見做される日がくるかもしれない。
(文=榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト)