――『投資なんか、おやめなさい』では、各種投資商品によってリスクを負うのは消費者であって、金融機関は売れば売るほど手数料で儲けられるという現実が詳しく書かれています。金融機関と消費者は利益相反関係にあるという理解でいいのでしょうか。
荻原 いえ、金融機関と消費者がウィン・ウィンの関係になる場合もあるかもしれません。しかし、今の日本の金融機関は、日本銀行のマイナス金利政策によって、消費者から収奪することを考えざるを得ないような状況に追い込まれています。
民間の資金需要が冷え込んだために融資で稼げなくなったからです。企業の内部留保が増え、さらに個人の住宅購入意欲が低下して、住宅ローンの新規貸し出しも伸びていません。
金利が高いカードローンも頭打ちになりました。多重債務者予備軍だけでなく、公務員など普通の人が一時的な生活費を賄う目的で借りるようになってしまい、結果的に自己破産者をどんどん増やしています。これ以上は拡大できないでしょう。
「外貨建て生命保険ならオトク」のウソ
――今や上場企業の半数程度が実質的に無借金経営ですね。
荻原 第2次安倍政権が発足した2012年以降、アベノミクスによって企業の内部留保は約70兆円も増え、メガバンクの取引先は融資需要が減ってしまいました。
地方銀行や信用金庫の取引先はまだ融資需要が高いのですが、信用力の低い中小企業がメインなので、融資を拡大できる状況にありません。つまり、預金を預かっても貸し出す先がないし、今までのように、それを日銀の当座預金口座に預けたらマイナス金利で損をするだけ。
銀行には、もう生き残る道がないのです。そうなると、手数料で稼ぐしかありません。そこで、特に投資商品の販売に力を入れ始めたのです。投資商品は買う側にはリスクが発生しますが、売る側はノーリスクで手数料を稼いで儲けられます。
――金融機関の担当者は、相変わらず「預金しても金利はゼロに近くて意味がないから」という理由で投資を勧めてきます。逆にいえば、これ以外に投資を勧める理由がないということでしょうか。「増やすよりも減らさないほうが大切」という考え方もあるはずです。
荻原 それ以外に勧める方法がないのだと思います。いわゆる普通の人は、そんなに投資が好きではないですよ。だって、よくわからないのですから。
たとえば、ドル建て生命保険の運用利回りが3%で、日本円の終身保険の運用利回りが1.5%であれば、中途解約した場合に「為替変動さえなければ、ドル建てのほうが多く戻ってくる」と思うのが普通でしょう。
ところが、戻り率はドル建てのほうが少ない。手数料が高いからです。保険会社にとってドル建て生命保険は手数料で稼げるおいしい商品というわけですが、多くの人はその事実に気づきません。
『投資なんか、おやめなさい』 「老後のためには投資が必要」なんて大間違い。「何に投資すれば?」と窓口で訊くなんて愚の骨頂。銀行も、生命保険会社も証券会社も、いま生き残りをかけて私たちのお金を狙っている。個人年金、純金積立、マンション投資、毎月分配型投資信託……あらゆる投資商品でカモの争奪戦を繰り広げているのだ。2018年、20年に高い確率で到来する大不況にどう立ち向かえばいいか。リスクと不安を抱えないための資金防衛術。