日本でも、あの平成バブルの時代は取引事例比較法でしか説明できないほど住宅の価格が高騰した。賃貸に出した場合の実質的な利回りが2%程度といった価格で新築マンションが販売され、それが売れていた。
現状、日本は一部の地域で新築マンションの価格が取引事例比較法でしか説明できないレベルにまで高騰している。だから、これはバブルだ。地域限定なので私はかねがね「局地バブル」と呼んできた。この呼称は定着しつつあるように思う。
中国バブル崩壊のリスク
今、世界の不動産市場で起こっている現象を眺めていると、気づくことがある。それは、市場環境が成熟していないところほど、バブルは理解不能なまでに膨らんでしまう。平成バブルの時代、金融のボーダレス化は今よりもはるかに遅れていた。プラザ合意による金融緩和で余ったお金は不動産や株式への投資に流れ、合理的に説明できないレベルにまで騰貴をもたらした。
今の日本経済は、世界経済にしっかり組み込まれている。資本の移動は30年前とは比較できないほど自由だ。したがって、日本の不動産も金融商品として説明できる範囲内で資産価値を変動させている。
しかし、中国や台湾、香港といった地域は金融ボーダレスが浸透していない。シンガポールの不動産騰貴はある程度納得できるが、香港の築半世紀のアパートが平均年収の100年分という価格形成は経済的な合理性を著しく欠いている。
中国が完全に共産主義経済の国であれば、「勝手にやってください」の世界になる。しかし、今の中国大陸の本土や香港は世界経済の一部である。そこにおける経済の仕組みは基本的に資本主義に基づく自由経済がベースにある。ということは、いずれ合理的な価格形成、つまりは今の水準からの暴落が発生するはずだ。
中国大陸や香港でバブルが崩壊しても、そのこと自体が日本の不動産市場に直接影響することはない。しかし、不動産価格の急激な下落や、それがもたらす経済的混乱は世界経済を少なからず停滞させるはずだ。また、不動産という共通項において、日本の不動産市場にも心理的に暗い影を投げかけるに違いない。
日本も、あの平成バブルの時代まで不動産の資産価値評価は取引事例比較法だった。しかし、今は収益還元法が暗黙のルールになりつつある。日本の不動産市場も成熟したということだろう。
しかし、完全なバブルになっている中国と香港、台湾は取引事例比例法でNOIが1%やそれ以下の取引事例がゴロゴロしている。これが3%という健全なレベルに戻るには単純計算で価格が3分の1に暴落する必要がある。
あの平成バブルの崩壊後、日本の不動産は資産価値が3分の1以下になった物件がゴロゴロあった。今後、あの地域でそういう現象があってもなんの不思議もない。むしろ必然だろう。
その時、日本の不動産市場はどのような影響を受けるのかを我々は心配しなければいけない。
(文=榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト)