A氏 インドの案件を依頼された時に急遽、12年7月に友人が持っていた法人を低い価格で買収するかたちで、会社を持ちました。その会社に多少の赤字分が累積していたことや、登記費用、手続き期間などを考えると、買収したほうが得策だと判断したのです。それ以降はITと事業開発の経験を生かし、開発を離れ、コンサルティングビジネスに移行しました。上流工程に携わったほうが、自由度および利益共に大きいからです。
具体的なプロジェクトは、ITを用いた美容系ビジネスのアドバイザーや飲食店のリピート率改善などです。大きなものでは、自動車販売会社の業務改革のコンサルティングを行っています。ここでは、リピート率向上を実現するための全社としての顧客対応の戦略づくりからCRM仕様策定、開発マネジメントまで一貫して携わっております。このほかにも、ITを用いてビジネスをつくりたいという需要はさまざまな領域で大きいため、小売業での新規参入領域策定などコンサルティングでは多くの業界で業務を行っています。これらの事業は現在も継続中で、並行して自社事業として新卒採用支援事業に参入しました。
●採用市場のひずみ
―具体的には、どのような事業内容ですか?
A氏 主に、企業からの新卒採用イベントの受託およびwebを用いた広告です。一般的な合同説明会は、運営側にとっては美味しいビジネスですが、学生にとってはあまり意味があるものではないケースが多い。合同説明会に行って大満足している学生の割合など、2%未満ではないでしょうか。マッチングビジネスであるにもかかわらず、一方のニーズしか満たしていないケースが散見されます。この市場では情報の非対称性も強く、学生の立場が弱すぎるので、このような構造になるのでしょう。「だったら、その隙を突き、事業をつくってやろう」というモチベーションが、私の中で働いています。
弊社が行うイベントの特徴としては、学生側の満足度が極めて高く、その多くはリピーターとなっていただいておりますが、これは「集客手法」「コンテンツ」「ホスピタリティ」の3つの要因によるものです。まず「集客手法」としては、そのイベントで満足度が高いであろう学生にリーチする効率的な手法を持っています。「コンテンツ」としては、学生側のニーズから生まれたイベントを行い、そこに企業を参加させることで従来手法とは異なる企画ができます。そして「ホスピタリティ」としては、合同説明会に代表されるように学生を大量に集めて処理速度を上げスループットを求めるような扱い(社内ではブロイラーのようだと言っています)をやめ、学生一人ひとりに深い接点と気遣いを持つことです。なお、「ホスピタリティ」に関してはホテルのマリオットやリッツ・カールトン、温泉旅館の加賀屋を参考にしています。
もちろんこれは、企業にとっても高精度のターゲティングがなされた学生と比較的低コストで、かつ学生側が取り繕いすぎていない状況で深い接触がなされるという利点が従来手法と比較し存在します。このように、学生側のニーズから入り込みつつも双方のニーズを満たすビジネスが我々の手法です。
ちなみに弊社の顧客としては、新卒採用を行う企業のみならず、採用支援会社も多いです。そうした企業からOEMのようなかたちで採用支援の受託を受けています。まだ立ち上げて4カ月程度のビジネスですが、OEM会社としての顔も持っております。
―ところで、企業は新卒採用に当たり、志望学生の偏差値重視の傾向を強めていると聞かれますが、事実でしょうか?
A氏 偏差値重視となっているのは、大量エントリーの時代となり、ほかに明確なスクリーニング条件がないからです。さらに言えば、能力と学歴との相関は強く、その大きな傾向が急激に変わる兆しはあまりありません。弊社は上位校や理系へのリーチでも強みを持っているため、この学歴・学部セグメンテーションが強く根付く市場においては活躍しやすい状況です。
―Aさんは来年4月に大手コンサルティング会社に就職されるわけですが、せっかく起業したのに、なぜ就職という選択をされたのですか?
A氏 当社の事業内容は、私の個人事業から発展した内容であり、この延長線上に将来の目標である評価額5000億円以上のビジネスは存在していないと考えています。そこで大きなビジネスに触れ、それを深く知り、変革する修業として、コンサルティングの経験が生きるのではないかと思い、就職をすることにしました。ただ、このビジネスの拡大ストーリーと後任のチームづくりは順調に進んでおり、今年は飛躍の1年としたいですね。
―ありがとうございました。
(構成=編集部)