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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第66回

巨大新聞2社が合併か?“新聞業界のドン”のもとに二重スパイから情報提供

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「Thinkstock」より
【前回までのあらすじ】
 業界最大手の大都新聞社の深井宣光は、特別背任事件をスクープ、報道協会賞を受賞したが、堕落しきった経営陣から“追い出し部屋”ならぬ“座敷牢”に左遷され、飼い殺し状態のまま定年を迎えた。今は嘱託として、日本報道協会傘下の日本ジャーナリズム研究所(ジャナ研)で平凡な日常を送っていた。そこへ匿名の封書が届いた。ジャーナリズムの危機的な現状に対し、ジャーナリストとしての再起を促す手紙だった。そして同じ封書が、もう一人の首席研究員、吉須晃人にも届いていた。その直後、新聞業界のドン太郎丸嘉一から2人は呼び出され、大都、日亜両新聞社の社長を追放する算段を打ち明けられる。しかし、その計画を実行に移す直前に東日本大震災が起こった。震災から2カ月を経て、太郎丸が計画再開に向けて動き出した。

 太郎丸嘉一は弁当に箸をつけながら、語り出した。

「あのな、日亜サイドは『あいつ(伊苅直丈)をジャナ研の事務局次長で引き取ってほしい』と言ってきよった。奴の行状は知れ渡っちょってな。事務局長が『絶対駄目です。あんなのがきたら、女子職員が何人辞めるかわかりません』と言いよるんじゃ」
「そうです。とにかく、あいつは上の者にはヒラメですが、下だと、誰彼構わず、高飛車なんですよ。本人に自覚はないけど、パワハラそのものなんです。それを知っているのに、なぜ資料室で受け入れたんです? おかしいじゃないですか」

 同じ日亜出身の吉須晃人が太郎丸の発言を遮った。

「待ちょれ。もう少し聞きよれ。1月末に事務局長が日亜サイドに『拒否』と通告しよった。じゃがな、日亜前社長の富島(鉄哉・特別顧問)君がうちの三杯(守泰・社長)君のところに電話してきよってな、泣きつきよった。『何とか引き取ってくれ』とな。ジャナ研を傘下に置く報道協会長が三杯じゃからな…」

 太郎丸が間を入れるように、弁当に箸を出した。

「それで、受け入れることにしたんですか」
「いや、違うんじゃ。三杯君が困り果ててのう、わしに相談しよったが、わしは『駄目じゃ』と念押ししたんじゃ。じゃが、2月中ごろにな、突然、わしのところに伊苅本人が訪ねてきよった。とにかく図々しい奴じゃ。会わんわけにもいかんでな。会長室に入れよると、いきなり土下座しよるんじゃ」

 ここまで話すと、また弁当を口に運んだ。対面の二人とも黙っているのをみて、続けた。

「『私はここで受け入れてもらえないと、老後の生活設計が破たんします。会長の犬になりますから、何とかお願いします』と縋り付きよるんじゃ。わしも手を焼いてのう…」
「え、それで、資料室で引き取ったんですか」
「まあ、そう言われりゃ、そうじゃが、お主らは『主席研究員』じゃが、奴はただの『研究員』じゃし、仕事は何も与えんぞ」
「肩書が違うとは知りませんでしたが、仕事がないのは僕らも同じです」
「何を言うんじゃ! お主らは年に1回か2回、季刊誌にコラム原稿を書いてもらっちょる。じゃが、奴は何もせんのが仕事じゃ。それに、問題を起こしよれば、すぐに日亜に戻す、と一札取っちょるんじゃ」
「でも、奴は二重スパイになるような男です。まさか、会長は奴を通じて日亜の情報を得ているんじゃないでしょうね」
「心配せんでええ。わしが奴に『情報を提供せよ』と言いよったことはないぞ。奴が勝手に『秘書の杉田(玲子)君が村尾(倫郎)の愛人だ』とか『富島君がホステスを孕ませて、村尾と二人で処理した』とか言ってきよるんじゃ。毎日、電話してきよるんでな、うるそうてかなわん」
「奴は相当な電話魔らしいです。まさか、それで、会長が『愛(う)い奴』と誑(たら)し込まれ、気を許しているんじゃないでしょうね」

 深井宣光は黙々と弁当を食べ、太郎丸と吉須の二人による、伊苅を巡る会話を聞いていたが、突然、会話に参入した。

「心配せんでええ、言っちょるじゃろ。奴が今度の作戦に気づきよるようなことはないんじゃ。勝手に報告してきよるじゃけん、わしは聞いとるだけじゃ」
「僕らは『伊苅は吉須さんの動静を村尾社長に上げるのが役割』と聞いていましたけど、そういうことじゃないんですか」
「それはじゃな、わしが流した話じゃ。全員が『ノーサンキュー』と言っちょる、伊苅のような奴を受け入れよるんじゃから、ジャナ研内を納得させよるための方便じゃわ」
「『資料室で吉須さんのスパイが仕事』となれば文句が出ない、ということですか」
「そういうことじゃ」
「でも、吉須さんは資料室にほとんど来ませんからね。大地震以降は1回も立ち寄っていません。奴がスパイしたくてもしようがないですね」
「何! この2カ月、吉須、お主は資料室に全く寄りつきよらんのか」