巨大新聞2社が合併か?“新聞業界のドン”のもとに二重スパイから情報提供
「さっきも言いましたけど、舞ちゃんは『杉田さんと村尾さんは今も続いている』と断言しているんです」
「ふむ。それはええのう。脈がありよるかもしれんぞ」
太郎丸はニンマリして天井に目を向けた。
「脈ってなんですか」
「お主も鈍いのう。二股不倫の証拠写真を撮りよることじゃ。慎重に付きおうちょっても、秘書じゃから、退社後の予定を探りよるくらいはできるじゃろうからな」
「そういうことですか。僕としたことが鈍すぎましたね」
深井は苦笑いしながら、頭を掻いた。すると、吉須がまた水を差した。
「あと2週間ですよ。密会をキャッチできますかね。難しいような気がしますけど…」
「わしは今の写真で行けよると思っちょる。キャッチできよればもうけものじゃ」
不機嫌になった太郎丸が吉須を睨み付けた。会話が途切れると、太郎丸はお吸い物を啜り、残った弁当に箸を運んだ。吉須と深井の二人は弁当を食べ終えていた。
「遅いですね。もう7時過ぎましたよ」
「週刊誌の連中は7時半頃になりよるかもしれん。『7時から7時半の間に行きます』ということじゃった」
(文=大塚将司/作家・経済評論家)
【ご参考:第1部のあらすじ】業界第1位の大都新聞社は、ネット化を推進したことがあだとなり、紙媒体の発行部数が激減し、部数トップの座から滑り落ちかねない状況に陥った。そこで同社社長の松野弥介は、日頃から何かと世話をしている業界第3位の日亜新聞社社長・村尾倫郎に合併を持ちかけ、基本合意した。二人は両社の取締役編集局長、北川常夫(大都)、小山成雄(日亜)に詳細を詰めさせ、発表する段取りを決めた。1年後には断トツの部数トップの巨大新聞社が誕生するのは間違いないところになったわけだが、唯一の気がかり材料は“業界のドン”、太郎丸嘉一が君臨する業界第2位の国民新聞社の反撃だった。合併を目論む大都、日亜両社はジャーナリズムとは無縁な、堕落しきった連中が経営も編集も牛耳っており、御多分に洩れず、松野、村尾、北川、小山の4人ともスキャンダルを抱え、脛に傷持つ身だった。その秘密に一抹の不安があった。
※本文はフィクションです。実在する人物名、社名とは一切関係ありません。
※次回は、来週3月14日(金)掲載予定です。