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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第55回

株式売買価格を固定する“傲慢経営”の巨大新聞社~天然記念物的閉鎖性が堕落を生んだ

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 これが「保有機構」の仕組みで、転換以前の株主にとっては相続の際、1株=50円で評価すればよく、都合のいい仕組みだった。国民の一株当たり純資産は約5000円で、仮に純資産方式で評価すれば、1万株で5000万円の相続財産になるが、50円で評価するので、わずか50万円にしかならない。

 転換以後の株主約200人のうち現役は人事権で首根っこを押さえられているので、経営陣を困らせる行動に出る心配はない。だが、OBだと、そうはいかないのが盲点だった。

 大都や日亜と違い、国民はジャーナリスト精神が旺盛な連中が幹部社員になる新聞社としてオーソドックスな会社だ。OB株主の中で、ジャーナリストとしてみれば、日本の新聞社の会社形態が世界に例を見ないような前近代的な遺物だと気付く者がでてきても不思議ではない。皮肉なことにこれがもう一つの要因だ。

 実際、そういうOB株主が現れてしまったのだ。公取委が独禁法の特殊指定の見直しに動いた時期に重なる6年前のことだ。2000株を持っているOB株主が別のOB株主に1000円で1000株を売却する契約を結んで、国民に譲渡の承認を求めた。しかし、国民が譲渡を承認せず、勝手にその千株を発行価格50円で「保有機構」が買い取り、裁判沙汰に発展した。

 今は「保有機構」に規約があり、機構を通じての売買は発行価格の50円に固定すると明記されている。しかし、売買をしたOB株主が「保有機構」から株式を購入した時には規約はなく、「保有機構」に売り戻すという契約もなかった。

 裁判の争点は、規約はなくても、慣行があったかどうか、あったとすれば、株主はその慣行に拘束されるのかどうか、だった。

 二人のOB株主は本人訴訟(弁護士を立てずに裁判に臨む訴訟)だったが、国民と「保有機構」は元最高裁判事の弁護士や検察官僚出身の著名弁護士などで構成する大弁護団で応じた。国民と「保有機構」の主張に軍配を上げれば、世界に類を見ない株式会社の存在を容認することになるとみられていたが、裁判所は強き者の味方だった。OB株主二人は最高裁でも敗訴、慣行があれば株式の取引価格を固定した株式会社にお墨付きを与えたのだ。

 太郎丸が株式売買訴訟について説明している間に、仲居が食事を運んできた。太郎丸は仲居など目に入らないような雰囲気で説明を続け、二人はご飯茶碗を手に取り、食事をしながら聞いた。説明がひと段落すると、経済記者出身の吉須が急いた調子で切り出した。

「取引価格を固定するなんて、株式会社じゃないですよ。僕は新聞業界なんか、どうでもよいと思っていたから、国民の株売買訴訟なんて関心もなかったけど、そんな荒唐無稽(こうとうむけい)な判決が確定する日本ってどういう国なんですか。これじゃ、お先真っ暗じゃないですか」

 吉須の投げ掛けた疑問に深井がすぐに反応した。

「全くその通りです。国民はちょっと違うところがあるけど、うちの大都や吉須さんの日亜は英米型の資本主義を信奉しています。ステレオタイプに英米型のシステムを日本に定着させるための規制緩和と構造改革を実施せよと声高に騒いでいます」

 深井は残ったビールを一口飲んで、一息入れると続けた。

「それなのに、肝心の自分たちの会社は世界中探してもどこにも存在しないような形態なんです。国民は全ての株式を固定価格で取引できませんが、吉須さんのところは株主全員が社員とOBで、固定価格で取引されています。まさに天然記念物みたいな会社です」

「長いこと、俺も経済記者をやったけど、株式の取引価格を固定している株式会社なんて聞いたことがない。自分の会社がまさにその典型なわけだけど、入社以来、俺は自分の会社のことなんて全く関心がなかった。今さら不明を恥じても後の祭りだな」

「ジャーナリズムの堕落の原因の一つに、この天然記念物的な会社形態があるのは間違いありません。でも、太郎丸さんが時代錯誤の仕組みを守ろうと動いたのか、疑問なんです」

 深井は吉須を宥(なだ)めるような口調で話し、今度は太郎丸に目を向けた。

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