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出産しやすくする“技術的”方法~出産時期を調節、出産・育児を外部委託…

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 最後に「(3)育児アウトソーシング」についてですが、これは潤沢な資金と一定の時間をかければ、装置またはシステムとして実現可能であると考えます。

 しかし、以下の問題点があります。

・私は制御システムのエンジニアですので、「絶対的に安全」と呼べるシステムが「絶対的に存在しない」ことを知っています。このシステムが、保護者によるシビアアクシデントよりも十分低い確率で運用されるまでには一定の期間が必要で、その間、この装置によって危険に晒される子どもの存在を無視することはできません。

・ベビーシッターに支払うお金よりも、この「自動育児装置」が安価に実現できなければ、その存在意義はありません。また、このような装置を必要とする期間は、子ども一人あたり2年程度と推定されますが、この期間のためだけに、この装置を開発するモチベーションが、製造者と使用者に発生するかは、微妙なところです。

 私は、「育児を行うパートナーに連続6時間の睡眠を提供する」ことを目的として、かなり前から上記の「(3)育児のアウトソーシング(自動化)」の研究開発を提案してきました。たったこれだけのことで、育児のパラダイムが劇的に改善することを、私は当事者として知っていたからです。

 しかし、何度提案しても、「苦笑→失笑→話題の転換→黙殺」されます。いつだって、『あっはっは。相変わらず、江端君は面白いな。じゃあ、次。○○君、発表して』という感じです。いろいろな人に相談してみても、「そのような装置で育てられた子どもは、曲がった人間になる」とか、「母親がお腹を痛めて産む子どもだからこそ、愛情を込めて育てられる」などと、言い返されるのがオチです。

 総じて、「妊娠、出産、育児」に関する技術サイドからのアプローチに対して、私たちは(エンジニアですら)驚くほど保守的なのです。

●実現には、心理的な壁が最も大きな問題

 人類が第二次世界大戦前に、「知的に優秀な人間を創造すること」を目的とした優生学を発展させ、その結果、強権的な国家による人種差別と人権侵害の人体実験を行い、大虐殺を行った歴史的な事実があります。私たちが、このような過去の悪夢に心底から恐怖するのは自然なことです。

 また1978年、世界最初の体外受精による女の子が誕生した時、それを祝福する者は絶無で、世界中が「試験管の中で恐ろしいモンスターが誕生した」と非難の声を上げていました

 しかし、今や、生殖医療は不妊のパートナーの希望の光であり、日本中のパートナーのおよそ50組に1組が、いわゆる「試験管ベビー」を実施するに至っています。「生殖医療」「試験管ベビー」が、ジョージ・オーウェルの『1984年』(早川書房)や、オルダス・ハスクリーの『すばらしい新世界』(光文社ほか)に描かれるようなディストピア(反ユートピア)を招来することはなかったのです。

 さて、今回、私が提案した方法は、上記の優生学やディストピアと同列に論じられるものでしょうか? 私は、狂気の独裁者、またはマッドサイエンティストでしょうか?

 前述した通り、いずれの方法にも山のような問題点がありますが、これによって「子どもと共に生きる、幸せな人生」を実現できるようになるのであれば、私は継続して検討する価値があると考えます。少なくとも、政府の少子化白書は、出産後の「アフターサービス」の施策の話だけでなく、このような積極的な技術的アプローチに言及すべきであり、国家研究プロジェクトの予算は、ここへ多く投入されるべきだと思います。

 そして私たちもまた、このようなアプローチを「気持ち悪い」とか「なんとなく嫌」という感覚だけで切り捨てることなく、真剣にこれらに向き合う時期に来ているのだと思います。

 ろくに検討もしないまま沈黙することは、 ――「自動食器洗浄機は、女を怠け者にさせる」という、ナンセンスで前時代的な価値観に固執する同居の姑――と所詮は同じだと、私には思えるのです。

 さて、次回は、少子化問題を少し離れて、「人工的な人間のつくり方」をテーマとして、ES細胞、iPS細胞、またクローン規制法についてお話しさせていただきたいと思います。

 次々回からは、少子化問題に戻って、結婚の制度または法律面から検討してみたいと思っています。
(文=江端智一)

 なお、図、表、グラフを含んだ完全版は、こちら(http://biz-journal.jp/2014/01/post_3940.html)から、ご覧いただけます。

※本記事へのコメントは、筆者・江端氏HP上の専用コーナー(http://www.kobore.net/kekkon.html)へお寄せください。

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