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江川紹子の「事件ウオッチ」第34回

原発事故で東電元会長ら強制起訴 だが本当に法廷で真相解明できるのか?

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 それ以前に、現実問題として、どのようにして指定弁護士を揃えるか、という難問がある。おそらく証拠や資料は山のようにある。指定弁護士は原発に関する専門的な知識を学びながら、それを読み込んで準備をしなければならない。検察が断念した過失についての有罪立証をするためには、補充捜査も相当に行わなければならないだろう。指定弁護士は、裁判所の令状を得れば被疑者を逮捕したり捜索差し押さえもできる。これまで、そのような強制捜査が行われたことはないようだが、今回はどうだろうか。

 元検察官の落合洋司弁護士は、「これを検察庁が扱うとして、私が公判部長なら少なくとも3人の検事を専従にする。それくらい難しい事件」という。

 一方、大方の弁護士は、他の事件もこなして稼がなければ法律事務所を維持できず自身も生活できないので、この事件に専従というわけにはいかないだろう。これまでの強制起訴事件では3人の弁護士が指定されることが多かったようだが、本件の場合はそれではとても足りないのではないか。

 指定弁護士の報酬は、一審、二審と各段階ごとに最高で120万円と決まっている。一審の判決までに何年かかっても金額は同じだ。JR福知山線の脱線事故でJR西日本の歴代社長3人が強制起訴された事件では、検審議決から一審判決まで3年半かかり、明石歩道橋事故でも3年余りを要している。検審議決から強制起訴制度で、これほど長期間にわたる難事件に対応するとは、制度をつくった時には想定していなかったに違いない。

 今回の事件は、それ以上の年月を要する可能性がある。これほど難しくて手間も時間もかかり、経済的に割に合わない事件を引き受けるほどの使命感と経済的な基盤を持ち、能力の高い弁護士を何人確保できるかというのが、今回の裁判を意味あるものとするための最初の関門だろう。

刑事裁判は真相解明の場ではない

 裁判を開くことを決めた以上、少しでも新たな事実が出され、本件事故の原因究明や原発の安全性に資するものにしてもらいたい。そのためには、指定弁護士の報酬の限度額を大幅に増額するとか、検察事務官を派遣するとか、緊急に公的なバックアップを図らないとまずいのではないか。

 そのうえで、いま一度強調しておきたいのだが、どれほど充実を図ったとしても、刑事裁判はあくまで個人責任の追及の場であって、事故の真相解明にベストの場ではない。

 国会事故調はその報告書の中で、次のように述べている。

「本事故の根源的原因は『人災』であるが、この人災を特定個人の過ちとして処理してしまう限り、問題の本質の解決策とはならず、失った国民の信頼回復は実現できない。これらの背後にあるのは、自らの行動を正当化し、責任回避を最優先に記録を残さない不透明な組織、制度、さらにはそれらを許容する法的な枠組みであった。また関係者に共通していたのは、およそ原子力を扱う者に許されない無知と慢心であり、世界の潮流を無視し、国民の安全を最優先とせず、組織の利益を最優先とする組織依存のマインドセット(思い込み、常識)であった」

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