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人気の家系ラーメン、なぜ勝手に名乗る店が急増?実は明確なルールなし?

文=青柳直弥/清談社
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人気の家系ラーメン、なぜ勝手に名乗る店が急増?実は明確なルールなし?の画像1家系ラーメンの例(「Wikipedia」より/Hykw-a4)

 1974年に神奈川県横浜市で創業した「ラーメンショップ吉村家(よしむらや)」を源流とする「家系ラーメン」。ラーメン業界の一大ブランドとなったが、最近では、本家の流れを汲まないどころか、本家とは縁もゆかりもない「○○家」と名乗る店が増え続けている。

 ここ2、3年の間にも、全国各地に家系ラーメンのチェーン店が続々と誕生しているが、何も知らずに入ったが最後、「家系って、こんなもの?」とがっかりするような店も少なくない。

 そもそも、本来の家系ラーメンとは、厳密にいえば本家「吉村家」が認めた直系店舗だけを指し、認定証を提示している直系の店は、全国にわずか10店舗足らずしか存在しない。

 にもかかわらず、各地に「○○家」を名乗るラーメン店が増え続け、事情を知らない客に「家系」に対する間違った印象を与えてしまっているのだ。なぜ、勝手に名乗る亜流の「家系」が増え続けているのだろうか。

家系ラーメン、急増の背景

 まず、あらためて家系ラーメンの定義をおさらいしておこう。

 前述のとおり、家系ラーメンの発祥は74年に横浜で創業した「ラーメンショップ吉村家」。創業者の吉村実氏が創作したラーメンは、濃いめの醤油だれに鶏油を浮かべた豚骨醤油スープに、酒井製麺による平打ち(正確には縦切り)麺を合わせたもの。これに具材として、チャーシュー、ほうれん草、海苔3枚、薬味ねぎが乗っているのが特徴だ。

 吉村氏は、86年に2号店として「本牧家」をオープン。さらに、そこから独立した「六角家」など、どの店にも屋号に「家」がついたことから、後に「家系ラーメン」と呼ばれるようになった。

「当初は、吉村家の流れを汲む弟子や孫弟子の店だけだったのですが、90年代後半から、吉村家とは直接関係のない店が登場し、『家系ラーメン』を名乗るようになりました。さらに94年、新横浜ラーメン博物館に六角家が出店したあたりから、2000年前後のラーメンブームに同調するかたちで、家系ラーメンブームが起こったのです。

 吉村家・創業者の吉村氏は、00年代に入って、やたらと家系を名乗る店が増え出してからは、直弟子が出した家系店舗には『総本山直系』と名乗らせています。また、吉村家が認めている直系店以外でも、たどっていくと吉村家にたどり着く店がありますが、これも本来の家系ラーメンだと思います。例えば『六角家』などは吉村家の直系ではなく、吉村氏も認めてはいませんが、たどれば吉村家に行き着くので本来の家系ラーメンといっていいでしょう」

 そう語るのは、フードジャーナリストでラーメン評論家の山路力也氏。さらに、最近では、個人経営ではなく、いわゆる「資本系」(大型チェーンの直営店やフランチャイズ店舗)が続々と家系ラーメンに参入。独自店舗を展開し始めたことで、全国各地に家系を名乗るラーメン店が増加している。

「その後、吉村家の流れにはない店も出てきて、その当時は亜流と見られていましたが、昨今、資本系が乱立している状況下においては、それらもれっきとした家系ラーメンと呼んでいいかと思います。これを言ってしまうと元も子もないですが、そもそも定義なんて、あってないようなものですから」(同)

 では、なぜこうも本来の家系とは縁もゆかりもない資本系の家系が増え続けているのか? 山路氏によれば、資本系が家系ラーメンに参入する背景には、外食産業における技術の進歩があるという。

「今や、濃縮スープやストレートスープ、たれ、麺などをパッケージで提供するスタイルが確立されており、骨からスープを取るという職人の技術がなくても、簡単に家系ラーメンの味を再現して提供できるようになりました。ただし、旧来の家系ラーメンでそれをやっている店はなく、このシステムを採用しているのは、すべて資本系です」(山路氏)

「本来の家系ラーメン」と「資本系」を見極める方法

 資本系が急増しているとすれば、客が「本来の家系ラーメン」と「資本系」を見分けるには、どうすればいいのだろうか。ポイントのひとつは、「資本系」には、味のブレやムラがないということである。

「本来の家系ラーメンのつくり方だと、同じ店でも時間帯によって味に違いがあり、午前中の味が好きな客がいれば、夕方の味が好きという客も出てくる。一方、チェーン化した家系は、スープもたれも完成したものを使うことが多く、物理的に味のブレやムラは起こり得ないんです」(同)

「おいしい」「まずい」といった味の良し悪しは、あくまで主観にすぎず、「本物」と「なんちゃって」を区別する判断基準とするのは難しい。そこで、店のレベルを見極める上で重要なのが、「きちんとスープを取っているかどうか」だという。

「旧来のスタイルでラーメンをつくっている『本物』の家系は、先ほど言ったようなスープの取り方をしているので、常にスープの寸胴をいじったり、骨を抜いたり入れたりしています。そのため、ちゃんと豚骨の入れ替えをしているかどうかが、『本来の家系』と『資本系』を見分けるポイントのひとつになるわけです」(同)

 ラーメンファンは、こうした事情を理解しているため、「チェーン店の増加=家系の衰退」とは考えていない。しかし、こうした「資本系」が増え続ければ、本物の味を知らない一般の客を、本来の家系ラーメンから遠ざけてしまうことにもなりかねない。

 そうなってしまえば、筆者を含むラーメンファンにとっても、非常に残念な事態だ。「資本系」の乱立を食い止める方法はないのだろうか。山路氏は、「本来の家系ラーメン店は、家系図を提示しては?」と語る。

「本来の家系ラーメンが、どこの店で修行したかという『家系の家系図』を店内に提示するなど、出自を明らかにすればいいのではないでしょうか。それによって、ブランディングなどの戦略的にも、最近増えているチェーン系との差別化が図れるかもしれません」(同)

 亜流の「家系」を「悪」とまではいわないが、家系ラーメンをブームにまでした本家「吉村家」や直系店舗に対して、本当にリスペクトがあるのなら、安易に「○○家」を名乗ることはできないはずである。
(文=青柳直弥/清談社)

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清談社

せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

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